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ケーススタディを理解するためのヒント
“システムならでは”の特性には大きく3つあります。
①目に見えない
②正解やゴールがない
③デジタルテクノロジーの変化が速い
これらの特性によりシステム開発で起こるトラブルの本質が見えにくくなり、結果として適切な判断を難しくします。DXの迷走のきっかけや原因をひもといていくと、これらが隠れていることが珍しくありません。ケーススタディで紹介するエピソードの中にも、この3つが直接的・間接的に関わっているものが多数あります。
特性① 目に見えない
それぞれの特性がどのようにトラブルの要因になるのか、順番に説明していきます。
まず、「目に見えない」ですが、システムというのはユーザーからはその実体が見えません。ソフトウエアやアプリなど製品としての形や機能は目に見えますが、その中身(プログラムの構造)がどうなっているのかは見えません。厳密にいえば、無数のコードで組まれたプログラムをドキュメントにして可視化することは可能です。しかし、仮にそれを見たところで、数字や記号が並んでいるだけで意味が分からないでしょう。
見えないものはチェックができない
この「見えない」という特性によって、プログラムが正しく組まれているかを発注者が見極めることがほぼ不可能となります。つまり、システム開発会社がきちんとシステムをつくってくれたかどうかを発注者はチェックすることができないのです。
納期になっても製品が仕上がってこないので、どこまで進んでいるのかをシステム開発会社に問い合わせたとします。システム開発会社は「全速力でやっていますが、想定外の不可避なトラブルが見つかって、その対応のために予定より時間がかかっています。あと1週間でできます」と答えます。しかし、実際にはエンジニアが別の案件を優先し、こちらのプログラムは後回しになって進んでいない……ということもあり得るのです。
製品が出来上がるまで分からない
見えないがゆえに、製品が仕上がってみないと品質が分からないという点も悩ましいところです。システム開発会社に「完成しました」と言われて使ってみると、「欲しかったのはこれじゃない」となってしまうことも日常茶飯事です。確かに発注者が入れてくれと言ったデータ類は取り込んであるし、自動計算などもやってくれるけれども、目的の数字が見つけにくいし、とにかく使いづらい。「新人でも直観的に使えるシステムが欲しいのだけど……」と言うと、「こちらは言われたとおりにやりました!」と不機嫌になるパターンもあります。
複雑化や老朽化、属人化に気付けない
目に見えないからこそ、システムが複雑化していることや老朽化していることに気付けないケースも多発しています。
さらに、システムの動作(見える部分)は同じでも、プログラム(見えない部分)が違うことは珍しくありません。すると、システムを組んだ本人にしかプログラムを読み解けず、システムが属人化します。属人化するということは、そのエンジニアがいなくなるとシステムが手に負えなくなるということを意味します。
言葉で説明しようとすると誤解が生まれがち
目に見えないシステムを、システムに詳しくない人に理解してもらうためには、言葉で分かりやすく説明するしかありません。しかし、「システムとは何か」を説明することは至難の業です。説明する側のコミュニケーション能力の問題というよりは、「システムとは何か」の定義や概念を的確に表現する語彙がそもそもないという問題が大きいです。
システムはほかの何にも似ていないので、例えを使って説明したり、何かと比較して考えたりといったことが難しいのです。
システム開発会社は発注者(システムに詳しくない)に言葉であれこれ説明して分かってもらおうとするのですが、的確な語彙がなかったり、専門用語でしか表現できない内容があったり、例え話がうまく通じなかったりなどして正しく伝わらず、発注者が誤った理解をしてしまうことがあります。例えば、システム開発会社側が言う「保守運用」の範囲と、発注者側が理解しているそれとが違っていて、「この作業は保守運用に当たるか否か」のトラブルになったりします。保守運用の範囲内であれば月々の保守運用費の中で対応してもらえますが、保守運用の範囲外であれば追加費用が発生するからです。
こんなふうに「見えない」ということは、システム開発のあらゆる場面でコミュニケーションのずれを生む原因となるのです。
