「IT担当者を採用してもすぐに辞めてしまう」「エンジニアはメンタルが弱いせいだ」……それは、経営者や上司自身が気づいていない「致命的な問題」のサインかもしれません。本記事では、住田賢司氏の著書『STOP!迷走DX デキる上司のためのITリテラシー改革』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、IT担当者が本音を言えずに去っていく組織の「構造的な課題」について、ケーススタディを通して解説します。

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ケーススタディ:IT担当者が次々と辞めるのは、なぜ?

D社は創業30年以上のペット用グッズの販売会社です。EC(ネットショップ)と実店舗6店舗があり、年商は約40億円、従業員は約80人います。

 

D社は創業者の経営センスでここまで売上を伸ばしてきた部分があります。例えばオリジナルのペット用品を開発して高価格帯のブランドとしてシリーズ展開したり、日本にはない海外商品を輸入販売したりなどはすべて創業者のアイデアです。

 

創業時はパソコンが得意なメンバーがいて、ECの黎明期からいち早くECサイトをつくり、ライバル社に差をつけてきました。現在も売上の大半はECです。

 

D社は最初は個人事業から始まり、数年で法人化したのですが、その時期にECサイトをつくって運用していたメンバーが離脱します。急激なITの発展によりECに参入してくる企業が増える中で、さらなる差別化の施策が必要となりましたが、そのプレッシャーが重くのしかかり、心身ともに限界を超えてしまったことが原因でした。それ以降、D社では新たにIT担当としてエンジニアを採用していますが、短期間で辞めていく事態が何度も繰り返されています。

 

IT担当者が定着しないため、日々の最低限の保守運用もまともにできていません。新しいシステムもつくりたいのでIT担当者には頑張ってほしいのですが、それを言うと当人の表情が曇りました。その様子を見て、D社の社長はどう考えたでしょうか? 自分だったらどちらに当てはまるかを考えてみてください。

 

A:「エンジニアはストレス耐性の弱い人が多くて困る。次こそメンタルの強いエンジニアが来てほしい」

B:「自社にIT担当をおくのは限界かもしれない。システム開発会社のエンジニアなら辞めても替えが利くだろう」

〈解説〉IT担当者は自社とシステム開発会社の板挟み

まず、IT担当者がなぜ辞めてしまうかの原因を掘り下げていきます。IT担当者には非エンジニアもいますが、D社の場合はいつもエンジニアを雇っているため、社長は「IT担当者=エンジニア」という認識で、「エンジニアはメンタルが弱い」と言っています。IT担当者がエンジニアでも非エンジニアでも、次々に辞めていく会社というのは、問題の原因をIT担当者本人の性格のせいにする傾向があります。しかし、メンタルの弱い人種がエンジニアやIT担当者になるわけでは当然ありません。つまり、本人の性格以外のところに原因があります。

 

こうしたケースの多くは、IT担当者が自社とシステム開発会社との間で板挟みの状態になっています。IT担当者は経営者や部門責任者から「君に任せたよ」と一任されているので、自分一人で保守運用の作業を行い、外注先のシステム開発会社とやりとりをしてプロジェクトを進めることになります。ITに詳しい人は社内に自分しかいないので相談する相手はいません。

 

外注されているシステム開発会社の立場からすると、IT担当者の言うことが経営者や部門責任者の意向だと思っているので、IT担当者と決めたとおりの内容でシステムをつくります。しかし、実際には経営者・部門責任者とIT担当者との認識のずれがあるため、システム開発会社は経営者や部門責任者の望みどおりのシステムをつくることができません。ここまでの説明は先にしたとおりです。

 

では、もう少し詳しくIT担当者のおかれている立場を考察してみましょう。納品されたシステムに満足がいかなかった場合、経営者や部門責任者はIT担当者に「君に任せたシステム、あれ全然ダメじゃないか。システム開発会社とどういうやりとりをしたんだ? 君の指示が悪いから、こんな仕上がりになったんじゃないのか?」と言うのではないでしょうか。 言い方や強さは違っても、IT担当者を責める気持ちであることは変わらないのではないかと思います。

 

IT担当者は経緯や理由を説明するのですが、経営者や部門責任者のIT知識の乏しさが原因でうまく伝わらず、苦慮することになります。挙げ句の果てには、「そもそも上司から具体的な指示はなかった。それで君に任せると言われたから、いろいろと気を利かせてつくったのに!」「あとから文句を言うくらいなら最初から具体的に指示してくれ!」と反発心を抱くでしょう。

 

悲しみや怒りは経営者や部門責任者に直接ぶつけられることはなく、IT担当者の中に解消されないまま残ります。

 

システム開発会社には「上司から指摘があり、ビジネス的には動きが期待と違うと言っている」と伝えて、手直しをしてもらわなくてはなりません。エンジニアに話をすると、「あなたに言われたとおりですよ? 要件定義書にもそう書いてあります」と言われてしまいます。確かにシステムは要件を満たしているので反論もできません。ここでもまたIT担当者はストレスを抱えます。

 

IT担当者は社内での立ち位置にも悩むことがあります。社内では「パソコンに詳しい人」という認識なので、メールの文面が文字化けして読めないとか、インターネット接続の設定方法が分からないなどエンジニアの本業とは違う雑用をいろいろと頼まれてしまいます。 大抵のIT担当者は頼まれごとをすると「自分の仕事とは違うな」と内心は思っていても「いいですよ。お手伝いしましょう」と言って対応します。すると、パソコン周りの困りごとは何でもIT担当者に聞けばいいという暗黙の了解ができてしまい、それがエスカレートしていきます。挙げ句にはコピー機の調子が悪いので見てほしいなど、パソコンと関係のない雑用までも求められるようになっていくのです。

 

それだけまめに対応をしても仕事の実績や評価には何も残りませんから、むなしい気持ちだけが募っていきます。

 

こうしたことが何度も繰り返されると、負の感情が積み重なって「こんな会社でやってられるか!」と心が折れるのですが、経営者や部門責任者からはIT担当者の雑務や、作業の結果に至る前に行う調査や検討などの仕事は目に見えにくいことばかりで、その立場の複雑さや心の内の苦悩まではなかなか気付けません。

 

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STOP!迷走DX デキる上司のためのITリテラシー改革

住田 賢司

幻冬舎メディアコンサルティング

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