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特性② 正解やゴールがない
次に「正解やゴールがない」についてです。システムには「何をもって正解とするか」「どこまでやればゴールなのか」が設定しづらいという課題があります。
システムには相場がない
例えば、システムの開発費がいくらなら正解なのかは判断の基準がありません。「要望どおりのものを一からつくる」という点で、システム開発と洋服のオーダーメイドは似ています。洋服を一から仕立てる場合は、この生地・デザインで、この職人がつくるなら大体30万~40万円などと相場が分かります。それに対して、システムの場合は同じ規模・同じ機能でも企画者や設計者の考え方が異なるので、開発費も大きく違ってきます。
システムは相場などの基準がない中で予算を検討するしかないため、判断が難しいですし、間違いや後悔も起こりやすくなるのです。
「納品=完成」ではない
「何をもってシステムの完成とするか」の一般的な定義もありません。仮に最初の要件どおりにつくれたら完成と定義した場合でも、開発のスタート時と導入時では要件が変わっていることも珍しくありません。そうなると、導入時に合わない箇所が出てきてしまい、調整や修正が必要となって“完成”とはいえなくなってしまうのです。
一般的に「納品」というと完成したものを納入することをいいますが、システムの場合は必ずしも「納品=完成」ではないという点が混乱をきたすのです。未完成のものを納品されたと怒り出したり、納品後の調整や修正の業務はどちらが費用負担するかでもめたりといったトラブルにつながりやすくなります。
また、システムというのは導入後も常に保守運用やメンテナンスが必要です。さまざまな要因に合わせて常に変化させていくべきものなので、ここまでやれば十分というゴールがそもそもありません。
正解が変わる、あとから誤りが発覚する
当初は正解だったはずの事柄が時間の経過や条件の変化によって正解ではなくなってしまうことや、正解だと思い込んでいたことが実は誤りだったと、あとから分かってくることもシステムではよくあります。
例えば、自社のIT担当者が優秀なのでDXをすべて任せていたとします。そして、IT担当者の働きでDXが進んだように見えました。こういう場合、「仕事のできる部下に仕事を任せて良かった」と思うはずです。ところが、何年かが経過し、IT担当者が急な事情で退職することになりました。すぐに後任を配置しましたが、前任しか分からないプログラムになっていて後任は頭を抱えています。こうなると、当初の「IT担当者に任せる」という経営判断が間違っていたことになります。
経営判断というのはその場その場で下さねばならず、考える時間は限られています。その時に想定できるリスクを考慮して判断するのですが、システムの場合はリスクの見通しが難しく、想定外のことが次々に起こってきます。私のようなシステムの専門家でも予見の難しいリスクがたくさんあるのです。ですから、何が正解かは「その時々で違う」し、そもそも「正解はあってないようなもの」だということになります。
仕事のできる人ほど積み上げてきた経験とビジネス常識を物差しにして、「こういう場合はこうする」「これはこのケースに似ているから、こうだ」というように判断を下していると思います。しかし、システムの場合は経験則やビジネス常識を単純に当てはめてしまうと、誤った判断を導いてしまうことにもなるのです。
システムというものは相場など比較の基準がないし、そもそも正解やゴールが定義できない特殊なものであるという認識を持つことが、システムを理解する第一歩となります。
特性③ デジタルテクノロジーの変化が速い
近年、AI技術が驚異的なスピードで進化しており、生成AIによるなりすましや著作権侵害などの問題が生じています。AIが生み出すものの精度が高くなり、人間の手によるものとの区別がつかなくなってきました。アメリカの実業家、イーロン・マスク氏は「2025年末頃には人工知能(AI)が最も賢い人間の知能を超える」と述べています。そして、「2029~2030年にはAIが全人類の知能を合算したレベルを超える」とも予測しています。
このようにデジタルテクノロジーは日々進化しており、企業はビジネスモデルや業務オペレーションの変革を余儀なくされています。ビジネスモデルや業務オペレーションが変わるということは、それに合わせてシステムも変えていく必要があるということです。
システムは完成してからも安定稼働を維持するため、保守運用やメンテナンスが必要ですが、この保守運用やメンテナンスが適切かつ効果的に行われなければ、そのシステムはすぐに時代に合わなくなってしまいます。
システムのメンテナンスには2種類あって、1つは現状を維持するためのメンテナンス。もう1つは、未来に向かって動かし続けることを前提としたメンテナンスです。前者は、日々の小さなバグを修正する程度のメンテナンスを指します。その程度しかやっていないと、システムによっては2年3年でも時代遅れになってしまいます。それくらいデジタルの世界はスピードが速いのです。適切なメンテナンスが行われず複雑化してしまったシステムは手入れしてよみがえらせることが非常に困難で、大抵つくり直しになってしまいます。
後者は、少しずつアップデートしている場合を指します。プログラム言語やコードは日々更新されていて、それをシステムに反映させることが一つのアップデートになります。高度化するサイバー攻撃に対して、セキュリティープログラムを更新することもそうです。適切かつ効果的にメンテナンスが行われているのであれば、そのシステムは長く使い続けることができます。
「メンテナンスには2種類あり、大事なのは未来に向けたメンテナンスだ」ということを知らないと、「システム開発会社に任せておけば大丈夫」「メンテナンスしていると言っているから問題ない」と思ってしまいます。そして、いざ機能拡張をしようとしたとき、複雑化している背景から高額な見積もりになり、「(その予算では)できません」と言われてしまう恐れがあります。こんなはずじゃなかった……と後悔しないためにも、システムというものの特性を理解することが極めて重要です。
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