食卓は一家が一つになる、大切な団らんの場
本連載では「家族の食卓」をキーワードに、親から子へと伝えていきたい食文化や生活習慣、学習のヒントなどについても述べていきます。
まず私が提案したいのは、食卓での家族の団らんを取り戻そうということです。
家庭の食卓というのは、ただ単に食事をとる場所ではありません。食卓は家族の団らんを端的に示す場であり、子どもたちが成長していく場です。
親子やきょうだいで、あるいは祖父母を交えて一家そろって食卓を囲む姿は、ついこの間までは、ごく普通にどこの家庭でも見られたものです。
食卓に並ぶ料理は質素だったかもしれませんが、すべて母親の手による心の温まるものでした。家族それぞれに使う茶碗や箸、座る場所などが決まっており、そこには家庭における秩序が反映されていました。食卓につきながら食事の作法もそれとなく教えられ、子どもは食生活の大切さを自然と身に付けていきました。
そして食卓には笑いが起こり、涙があり、会話がはずんでいました。同じ時間に同じものを食べることで、より互いに共感し合える家族が形成され、食卓こそ、一家が一つになる大切な場所だったといえます。
薄れつつある「家族と過ごす食卓」の重要性を見直す
ところが、今はどうでしょうか。
孤食、個食といった言葉に表されるように、家族それぞれが違った時間に、違った場所で、一人で黙々と食事をとる姿も珍しくなくなっています。
また最近は、せっかく家族がいてもテレビの前で無言で食事、というシーンも多いかもしれません。あるいは、各自がスマホを眺めながら、黙々と食べているという寒々しい風景もあるようです。
私も当校の生徒の家庭の食事風景を見る機会があり、驚いたことがあります。
その子の家では食事時間になると、家族がそれぞれに自分の食べる分をプレートにのせ、各自テレビの見やすい場所に陣取って、目をテレビに釘付けにしたまま黙々と食べているのです。これではいくら同じ場に家族がいても、とても団らんとは呼べません。なかには「必要がないから、食卓自体がない」という家もありました。
父親と母親は仕事、子どもたちは習い事や部活動、塾と、慌ただしい現代の生活では、毎日家族がそろって食事をとるのは難しいケースもあるでしょう。しかし、毎日でなく週に何日かでもかまいません。また夕食が無理なら朝食だけでもいいので、家族で食卓を囲む時間をつくる努力をすることです。
小中学生を対象にしたある調査では、成績が上位のグループの子どもたちほど、朝食や夕食で家族そろって食事をする回数が多い、という結果も出ています。
研究者は「家族での食事を楽しんでいる家庭は、親も意識して努力をしている。子どももそれを知っているから『夕飯には遅れないように帰ろう』と考える。そして食卓でさまざまな会話をすることが学力の土台になり、成績にもつながっているのでは」と分析していますが、私もまったく同感です。
食生活がきちんとしている子の陰には、自分たちもそれなりにきちんと行動している親がいます。子どもは親の言うとおりにはならない、するとおりになるのです。