ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
心身の不調に悩まされるビジネスパーソンたち
仕事のパフォーマンスが上がらない。頑張ってもやる気が続かない。このままでいいのかと不安になる―――こうした悩みを抱えるビジネスパーソンは決して少なくありません。
近年、ビジネスパーソンの間では、仕事におけるパフォーマンスや意欲の低下、将来への不安などの理由から、心身の不調を訴える人が増加傾向にあります。厚生労働省の「労働安全衛生調査(令和5年)」によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により休業・退職した労働者がいた事業所の割合は13・5%に上ります。また、同調査では、仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄がある労働者の割合は322.7%と、実に8割を超えています。
メンタルヘルスの不調は、企業にとっても深刻な経済的損失をもたらします。順天堂大学の研究によれば、精神疾患による損失は、医療費などの直接費用で約4・6兆円、労働損失などの間接費用で6・6兆円。合計で年間約1・2兆円に達すると推計されています(伊藤弘人ほか「平成22年度障害者総合福祉推進事業〈精神疾患の社会的コストの推計〉報告書」)。
メンタルヘルスと仕事のパフォーマンスには、密接な関係があります。経済産業研究所が2021年に発表した論文「従業員のポジティブメンタルヘルスと生産性との関係」では、「従業員のポジティブなメンタル状態は、生産性に良い影響を与える」とされ、ワークエンゲージメントとの関連性も指摘されています。
また、アクサ生命が実施した「マインドヘルスとウェルビーイングに関する調査2023」によると、「職場におけるメンタルヘルスに関するサポート体制が充実している」と感じている人は、そうでない人に比べ、心の状態が良好で、生産性も高い傾向があることが分かりました。その割合は、およそ3倍に達しています。
このように、特にメンタル面で不調を抱えるビジネスパーソンは増加しており、それが企業や社会に与える影響として、喫緊の課題となっています。
私が日本語と日本のビジネスを学ぶため、故郷カナダから来日したのは1995年、19歳のときでした。当時の日本でも、ビジネスパーソンのメンタルヘルス(「心の健康」と呼ばれることが多かった)が問題視されていました。
1990年代、日本はバブル崩壊後の「失われた10年」といわれた時期を迎えます。リストラやコストカットの影響により、長時間労働や過重労働で体調を崩す人が急増し、「過労死」も大きな社会問題となりました。その後、「Karoshi」という言葉がオックスフォード英語辞典に掲載されたことからも、日本の労働環境の特異性がうかがえます。当時は、精神的な不調は個人の問題とされ、企業や社会による支援体制は十分ではありませんでした。しかし今、ビジネスパーソンのメンタル不調の要因は、当時とは異なる様相を呈しているように思います。
現代社会は、デジタルデバイスの普及による情報過多が常態化し、私たちの心や身体、そして脳に想像以上の重圧を与えています。
例えば、SNSからの膨大な情報のなかで、私たちは常に他者との比較を迫られ、自分の価値を見失いがちです。リモートワークは自由度を高めた一方で、仕事とプライベートの境界線を曖昧にし、休むことさえ罪悪感へとつながります。成果主義は、年齢や学歴に関係なく活躍の機会をもたらす一方で、結果を求められ続けるプレッシャーとキャリアの不透明さが、不安を積み重ねます。さらに、リアルとネットが交錯することで人間関係は複雑化し、周囲への不信感や自己喪失感を生むのです。
こうした要因が絡み合うことで、私たちの心は疲弊し、自信を失い、自己肯定感や自己信頼感が低下していきます。その結果、自分を肯定できず、深いストレスを抱える人が増えているのです。
