「少しの間だから」——始まりは優しさだった
「まさか、こんなことになるとは思っていませんでした」
そう語るのは、70代後半の女性・高橋澄子さん(仮名)。年金月12万円で、都内の団地に一人暮らしをしていました。
3年前、息子の陽介さん(仮名・45歳)から電話がありました。
「仕事が続かなくて、生活が厳しい。少しの間だけ助けてくれないか」
離婚を経験した息子は、派遣や短期の仕事を転々としており、収入は月15万円前後。母として放っておけず、澄子さんは毎月4万円を仕送りするようになりました。
「自分も苦しいけど、息子の再出発を信じていました。半年くらいのつもりだったんです」
仕送りを始めて2年。息子から「もう少し続けてほしい」と頼まれ、澄子さんはやりくりを続けていました。
「外食をやめて、電気もこまめに消して、貯金を崩して…。でも、母親だから我慢できたんです」
そんなある日、銀行から届いた残高通知を見て愕然としました。
「えっ、残り10万円しかない…?」
通帳には、毎月4万円の仕送りのほか、電気・ガスなどの口座引き落としが重なり、貯金が底をつきかけていました。さらに、息子に送金したはずの月も、同じ日付で5万円、7万円といった不明な引き出しが。
「息子に聞いたら、“ああ、それも必要だったから”って。理由を聞いても答えない。もう何を信じていいかわからなくなりました」
親子の金銭援助は、“情”に基づいているだけに断ち切りにくいもの。しかし、一度始まると、支援が“前提”になってしまう危険があります。自分の生活を犠牲にしてでも子どもを助けようとしてしまうこともあります。
澄子さんのようなケースは決して特別ではありません。
息子の生活が改善しないまま、仕送りは3年目に突入。澄子さんの貯金はついにゼロに。
「通帳を見て、やっと気づいたんです。もう息子を支える余裕なんてないって」
しかし、仕送りをやめると、息子の口から出たのは意外な言葉でした。
「じゃあ、生活保護を受ければいいのか?」
実は、生活保護制度では「扶養照会」といって、まず親族に援助の可否が確認される仕組みがあります。ただし、扶養義務は“努力義務”にとどまり、法的な強制力はありません。
親族が支援できない事情を説明すれば、生活保護の申請は認められます。しかし、“親が断りきれず援助を続けてしまう”ことで、結果的に本人も救済されないケースがあるのです。
