家族が直面する“法の壁”
恵理子さんは「今後のお金の管理を手伝いたい」と銀行に相談しましたが、職員の答えは冷たく感じられたといいます。
「『口座名義人が判断能力を失っていない限り、家族でも取引に関与できません』と言われました」
これは金融機関の共通ルールで、成年後見制度を利用しない限り、家族が勝手に口座を管理したり出金を止めたりすることはできません。
成年後見制度には大きく2種類あります。
法定後見制度:すでに判断能力が低下している場合、家庭裁判所が後見人を選任
任意後見制度:判断能力があるうちに、将来の後見人を事前に契約
ただし、どちらも手続きに時間と費用がかかるため、利用率は高くありません。
母の件をきっかけに、恵理子さんは「見守り契約」や「財産管理委任契約」といった柔らかい制度を調べました。これは、判断能力があるうちに家族や第三者(司法書士など)と契約し、通帳のチェックや支払い代行を委任する仕組みです。
「母に説明したら、『そんな大げさなことしたくない』って言われました。でも、“信頼して任せられる相手がいる”と思ってもらえるよう、少しずつ話しています」
制度を使うかどうかよりも、“普段からお金の話をできる関係性”をつくることが第一歩。家族が『お金の話=監視』と思わず、『支えるための確認』だと伝えることが大切です。
その後、久美さんは通帳を娘に預け、「これからは一緒に考える」と約束してくれたといいます。
「怒ったり責めたりしても、意味がないと思いました。母なりの“生き方の表現”だったんだと思います」
高齢者が“使い切る自由”を持つことは悪ではありません。しかし、その自由を守るには、制度と信頼関係の両輪が必要です。
年金で暮らす高齢者の多くは、「迷惑をかけたくない」という思いから、あえて家族に相談しないこともあります。だからこそ、日頃から通帳や支払いの話を共有し、変化に気づく仕組みをつくることが重要です。
お金の管理は、単なる数字の問題ではなく、“家族のつながり”そのものを映す鏡なのかもしれません。
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