「自由に生きる」ことが、誇りだった
「同期が部長になっても、俺は平社員でいい。肩書きより自分の時間が大事だ」
そう口にしていたのは、印刷関連会社に勤める小林誠さん(仮名・50歳)。入社以来、転勤もせず、営業職として穏やかな日々を過ごしてきました。
上司との関係は良好で、取引先からの信頼も厚い。残業も少なく、趣味のキャンプやバイクを満喫する日々。「出世争いに疲れた同期が倒れていくのを見て、これでよかった」と思っていたといいます。
そんな小林さんのもとに、ある日届いた「ねんきん定期便」。何気なく開いて、目が止まりました。
「老後に受け取れる見込み額:月額11万6,000円」。
「え、これだけ?」と声が出たといいます。
同年代の平均年金額(厚生年金)を調べてみると、月14〜15万円前後。「自分は大企業勤務だから安心だと思っていたけど、同期より3〜4万円も少ない。まさか“役職”でここまで差が出るとは思っていませんでした」
厚生年金は、原則として現役時代の平均報酬額(標準報酬月額)をもとに計算されます。つまり、役職が上がって給与が増えるほど、将来の年金額も増える仕組み。
小林さんは係長に昇進して以降、昇格を辞退してきたため、年収はここ10年以上ほぼ横ばいの年収480万円前後。
「手取りで言えば35万円ほど。趣味に使えるし、生活にも困らなかった。でも、年金が“生涯の給料”だと考えると、ちょっと怖くなりました」
金融庁の試算によると、65歳以降の夫婦世帯では、年金だけでは毎月約5万円の赤字が発生し、20〜30年で2,000万円以上の不足が生じる可能性があります。
小林さんは独身ですが、住宅ローンが残り10年。老後に支払いが続けば、生活費はさらに圧迫されます。
「会社に残るとしても、定年が60歳。その後の再雇用は給料が3割減。70歳まで働いても、手取りは20万円そこそこ。自由を貫いた結果、将来自分を縛るのは“お金”なんだと気づきました」
