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「お金はあるのに、暮らしは苦しい」
「この通帳を見てくださいな。もう、ほとんど残っていないのよ」
東京都内の区役所。窓口で年季の入った通帳を差し出したのは、76歳の女性・高原幸子さん(仮名)でした。傍らには一卵性の妹・節子さん(仮名)の姿もあります。2人は都内湾岸エリアのタワーマンションに暮らす双子の姉妹。周囲からは「優雅な老後を送っていそう」といわれる存在です。
ところがその日、彼女たちは生活支援の相談に訪れていました。担当職員は最初、「タワマンにお住まいの方が、なぜ……」と、冗談だと思ったそうです。
「もう限界なんです。電気代も食費も上がって、年金だけでは払えない。部屋を売るにも、妹と2人でどうすればいいのか……」
2人が暮らすマンションは、築12年・駅徒歩5分の高層タワー。購入当時の価格は1戸7,000万円前後でした。いまでは市場価格が1億円を超えるといいます。にもかかわらず、通帳の残高はわずか40万円。
原因は、夫の遺族年金(月12万円)と節子さんの年金(月9万円)を合わせても、月の支出が25万円を超えていたことでした。管理費や修繕積立金、固定資産税、そして近隣物価の高さ。
「“持っている資産”ではなく、“使えるお金”が足りないんです」
それが2人の共通の悩みでした。
老後に生じる、資産価値と生活実態とのギャップ
高齢世帯における「資産はあるのにお金がない」状態は、いま全国的に拡大しています。総務省の家計調査(2024年)によれば、65歳以上の単身高齢者世帯の貯蓄中央値は約900万円。しかし、その多くが定期預金や不動産など、すぐに現金化できない「ストック資産」です。さらに都市部では、資産の約6割を自宅不動産が占めており、現金収入が乏しい世帯も珍しくありません。
高原姉妹の場合も同様でした。「売ればいい」と簡単にいえないのが現実です。売却すれば住む場所を失い、賃貸に移れば今度は家賃がのしかかります。また、マンションの高層階では高齢者にとって生活動線の確保も一苦労です。エレベーターが止まれば外出もままならず、管理組合の会合では若い世帯と意見が食い違うことも多いといいます。
節子さんはこう打ち明けました。
「昔は“老後は都心のマンションが安全”と思っていたの。でもいまは、なにをどうすればいいかわからないの」
さらに追い打ちをかけるのが、固定資産税と修繕積立金の高騰です。固定資産税評価額は築年数が経つごとに下がるとはいえ、都心部のタワマンでは依然として年30万〜50万円台。修繕積立金も新築時の2倍に達するケースが増えています。
「これからの10年、年金額は減り続け、社会保険料負担は上がります。生活の“固定費化”を見直さない限り、現金不足はさらに深刻になります」と、筆者は相談に乗った際に伝えました。
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