いよいよ定年、8,000万円の資産を手に入れたが…
そして迎えた65歳での完全リタイア。当時、退職金と貯蓄で8,000万円という資産に到達していました。
やっと気兼ねなくお金を使えると思いきや、長年染みついた節約癖は抜けません。妻との退職祝いの旅行計画を立てても「今は高すぎる」と迷ううちに、季節が過ぎていきました。
そんな折、正彦さんの持病の腰痛が急速に悪化。長距離移動が難しくなりました。痛み止めの副作用で胃が荒れ、食欲も落ち、日に日に気力まで削がれていきます。元気なうちに行きたいところに行っておけばよかったと思っても、もう体がついていきません。
正彦さんは、家計簿を眺めてはため息をつきます。
「退職して1年ですが、相場がいいので資産はむしろ200万円ほど増えているんです。でも、普通に生活する分には年金と少しの貯金で足りるし、あとは介護にお金を用意しておくぐらいで、なんとかなる。……こうなってようやくわかったんです。老後に備えるという名目で人生を先送りして、何にも残っていないことに」
結局、お金があっても、若さも時間も戻らない――その事実に気づいた正彦さん、「せめてお前は楽しんでおいで」と、雅代さんが望めばお金を渡すようになったといいます。それを使って、友人や元パート仲間と旅行や食事を楽しむ雅代さんは、「今がいちばん幸せ」と笑います。
正彦さんは、自らの反省を踏まえて、こういいます。
「介護なんかでそれなりに減るでしょうが、最後は家もお金も息子に渡すことになると思います。『貯めておくだけじゃなく、元気なうちに家族で使いなさい』と伝えたいですね」
貯めても貯めても不安…それが人生の楽しみを奪う
誰もが老後の不安を感じます。 けれど、その不安は「貯めても消えない」ものなのかもしれません。1,000万円あっても心配になり、2,000万円、3,000万円と積み上げても、安心は訪れません。その結果、「貯めたまま終わる」人生になってしまうことも。
老後資金を貯めることは大切ですが、貯めること自体が目的になってしまうと、本来の人生の楽しみを奪ってしまいます。 健康で動ける期間には限りがあります。経験や思い出にお金を使うこと。貯める先にある「使うこと」が何よりも大切なのです。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
