(※写真はイメージです/PIXTA)

AI時代において従来の「安く買って高く売る」ことを目的とした「売買型株式投資」ではなく、企業の本質的価値と向き合い、長期的に成長を支える「オーナー型株式投資」が成功の鍵を握ります。本記事では、奥野一成氏の著書『武器としての投資~AI時代を生き抜く資産とキャリアの築き方~』(KADOKAWA)より、お金と仕事の不安を全解消に導く「オーナー型株式投資」の基本や投資家としての心得を解説します。

投資とキャリア……自身の行く末に迷う金曜日

金曜日の朝、W氏は少し早めに目を覚ました。今日は今週最後の出勤日であり、夜には転職エージェントとのオンラインミーティングが控えている。「もっとタイパ・コスパの良い職場に移れば、投資に集中できる時間が増えるのではないか」と考えながら、スマートフォンで市場の値動きを確認した。

午前中の顧客訪問では、普段通り準備を整えて臨んだが、「この仕事は本当に自分にとって最適なのか?」という考えが頭をよぎる。仕事そのものや人間関係に不満はないものの、日々の業務に追われることで、十分に自分の投資のリサーチ時間が確保できないことにジレンマを感じていた。

夕方、業務を終え、転職エージェントとのオンラインミーティングに参加。提示された転職先は、年収が少し上がり、残業が少なく、有給消化率も高い。「これなら、もっとマーケットを分析する時間が取れるかもしれない」とW氏は前向きに考えるが、「投資に時間をかけることが、本当に自分のキャリアにとって最善なのか?」と迷いも同時に生じる。

ミーティング後、ソファでビールを片手に考え込む。より多くの投資情報を集め、売買の精度を上げることが、本当に自分の人生を豊かにするのだろうか。そんな思いがよぎりつつも、結局スマホを手に取り、翌朝のマーケット動向を確認するのだった。
 

週末の投資サロンオフ会で覚えた悔しさと不安感

週末、W氏は投資サロンのオフ会に参加することを楽しみにしていた。朝、SNSをチェックしながら米国市場の動向を確認し、インフルエンサーのコメントを読み漁(あさ)る。そんなとき、大学時代の友人から「久しぶりに集まらないか?」とメッセージが届く。ふと懐かしさがよぎるが、「今日は予定があって……」と断ってしまう。

オフ会の会場に到着すると、すでに常連サロンメンバーが集まり、活発に情報交換をしていた。「今週、〇〇銘柄で30%のリターンが出た」「俺は新興株に資金を振り向けて、なかなかいい感じだ」―会話の端々に投資成績のマウンティングが滲(にじ)む。

W氏も負けじと、「自分もS&P500をいいタイミングで利確できた」と話すが、「それなら、もっとリスクをとって個別株に行けばよかったのに」と言われ、少し悔しさを覚える。

途中、主宰者である著名投資家が市場の展望を語る。W氏は熱心にメモを取り、最近売却した銘柄について質問を投げかける。「良い判断だった」と評価されると、安心すると同時に自信も深まる。しかし、別の参加者が「でも△△銘柄の方がもっと利益が出たよ」と話すのを聞き、W氏は再び不安になる。「自分はまだ甘いのか?」。

オフ会後、参加者とカフェに移動し、さらに投資談義が続く。「結局、いくら投資しているの?」という話題が出ると、W氏は曖昧(あいまい)に笑ってごまかす。明らかに数千万円単位で運用している人たちもいて、「自分はまだまだ小物かもしれない」と思わざるを得ない。かつては純粋に市場を学ぶことが楽しかったが、いつの間にか「他人より優れたリターンを出さなければならない」というプレッシャーを感じるようになっていた。

家でくつろいでいると、朝連絡のあった友人たちが集まった写真が送られてきた。居酒屋のテーブルに並ぶ料理、変わらない笑顔の仲間たち。「やっぱり行けばよかったかな……」。スマホを握りしめたまま、W氏はふと自分を俯瞰(ふかん)する。「投資ばかりに時間を割いているが、これで本当に自分は幸せなのか?」。

しかし、彼は思考を振り払うように市場の予測を続け、またいつもの通り夜更かしをしてしまうのだった。


奥野 一成
投資信託「おおぶね」 ファンドマネージャー
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC)
常務取締役兼最高投資責任者(CIO)

 

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※本連載は、奥野一成氏の著書、『武器としての投資~AI時代を生き抜く資産とキャリアの築き方~』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

武器としての投資

武器としての投資

奥野 一成

KADOKAWA

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