(※写真はイメージです/PIXTA)

「骨董品・古本・居酒屋『三福』」で、昭和の大投資家「エビ銀」に教わりながら、優良企業の株を見定めた信二・姫奈夫妻。いよいよと意気込み、株を買ってみたものの、早速市場の洗礼を浴びることに……。本稿では、奥山月仁氏の著書『株小説エビ銀 路地裏の大投資家が教えてくれたこと』より、株投資に勝つコツをみていきます。

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成長株への集中投資をすすめる理由

3人にとって、姫奈の書く「投資に勝つコツ」はあまりに当たり前のことだった。しかし、こうやって文字になっていくのを見ると、改めて、その当たり前こそが重要なことに自分たちも気付く。ここで信二が質問をした。

 

「証券口座も開設できましたし、まずはこのオーバーロードハウスを買いたいと思っています。ただ、持っている予算の中から、この株にいくら投資すればいいのか、その点を迷っていまして…」

 

「ふむ。それは、またまた大問題!」

 

マハ・カラの声にエビ銀がかぶせる。

 

「サラちゃんなら、全額ぶち込め!ってところかな?」

 

「ちょっと、ワタシのことを何だと思ってんのよ? こんな初心者に、いきなり全額ぶち込めとか、さすがに言えないでしょ!」

 

サラ柴はビールを飲みながら、笑う2人を睨んだ。

 

「そうだよなぁ。そうなんだけど、全部ぶち込むのが間違いだとも言えないよね。サラちゃんなんて、まさにその方法で大金持ちになったんだから。これは、本当のところは、誰も答えを持ってないんじゃないかな?」

 

エビ銀も答えを持っているわけではない。しゃべりながら考えている。

 

「株をやり続けていたら、後で振り返ってみると、あの時、全額ぶち込むのが正解だった、ってことは往々にしてあるよ。けど、それは結果論さ。もちろん、その反対もある。どんな会社でも思いがけない問題に直面して大赤字ってことは起こりうるし、そうなったら、大損だ。どんな良い株でも、どんなに安く買っても、株価は半分になる可能性がある、くらいに思って、ちょうどいい」

 

「素人が何も考えずにノリだけで勝負したら、半分じゃすまないわ。スッカラカンになったなんて話、そこら中にゴロゴロしてる」サラ柴が付け加える。

 

「これも最終的には自己責任で判断してもらいたいんだけど、オレのおすすめはこうかな」

 

エビ銀は2人の状況を踏まえて説明を始めた。

 

「君たちはお金持ちになりたいんだよね。だったら、成長株への集中投資はおすすめだ。素人がやるなら一番儲かる投資法といえる。ただ、1つの銘柄に集中するというのは、リスクの面からも、経験を積むという面からも、おすすめできない。1つで満足するのではなくて、有望株をどんどん探し出す努力が大事だと思う。複数の銘柄を持つことで、多少はリスクヘッジができるし、経験もいろいろ積むことができる」

 

これを受けてマハ・カラも持論を展開する。

 

「ただ、実際に買う銘柄はある程度は絞ったほうが良い。中には何十銘柄も買う人がいるけど、初心者だと集中力が続かない。そのうち、『アレ? この株、なんで持ってるんだっけ?』みたいなことになっちゃう。それに、仮に大当たりを引いても、他が足を引っ張ると大して儲からない。お金持ちを目指すなら銘柄数を増やしすぎるのは良くない。君たちなら、5銘柄くらいに分散するっていうのが良いと思うんだけどなあ〜」

 

「そうね。オーバーロードハウスだけじゃなくて、もっと他の株を探すことが大事ね」サラ柴もベターな選択として5銘柄集中投資に賛成だ。

 

エビ銀も「まぁ、そんなところだろうな」という顔をしている。

 

しばらく2人は小声で相談していたが、作戦が決まったようだ。

 

「わかりました。じゃあ、まずはオーバーロードハウスに予算の2割くらいを割くことにします。残りについては、また探してきます」

 

信二の声にサラ柴が反応する。

 

「なんか、いいわね。株を買うっていうのはこういうことね」

 

「そうだよな。やっぱフレッシュさが大事ってこと。日本の株式市場にも、あんたにも…」

 

エビ銀は一升瓶を引っ張り出しながら笑った。

 

「失礼ねっ。あんたなんかよりワタシのほうがずっとフレッシュなんですけどーっ」

 

スネるサラ柴を無視して、エビ銀はコップを5つ並べた。

 

「今日はうまい酒があるんだ。こいつはオレのおごりだよ」

 

例によって、返事を聞く前に酒を注ぐ。

 

「喜んで!」

 

姫奈は遠慮を知らない。この日は5人で富山の地酒を飲み干した。

 

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※本連載は、奥山月仁氏の著書『株小説エビ銀 路地裏の大投資家が教えてくれたこと』より一部を抜粋・再編集したものです。

株小説エビ銀 路地裏の大投資家が教えてくれたこと

株小説エビ銀 路地裏の大投資家が教えてくれたこと

奥山 月仁

日経BP

井の頭公園近くの路地裏で見つけた謎の店で、20代の夫婦(信二と姫奈)は昭和の大投資家エビ銀と出会い、株式投資の手ほどきを受けることになる。株のことなどまったく知らない、平凡すぎるド素人の2人をなぜエビ銀は弟子にし…

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