(※写真はイメージです/PIXTA)

一般的に、退職金は法律で一律に義務付けられているわけではなく、就業規則や労働契約に基づいて支払い義務が生じるものです。そのため、規定がない会社では必ずしも支払う必要があるとは限りません。とはいえ、安易に拒否すれば労使間の信頼関係を損ない、労働審判や訴訟などの法的トラブルに発展する可能性もあります。経営者としては、退職金請求の法的根拠を正しく理解し、適切に対応することが重要です。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」へよせられた質問をもとに、退職金規定がない場合の退職金の支払いについて、林遥平弁護士が解説します。

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横領・背任…「問題社員」への退職金、支払う義務はあるか?

今後同様のトラブルを避けるためには、退職金規定を整備することが有効です。作成にあたっては、支給対象者や支給要件、退職金額の算定方法、上限額、懲戒時の不支給事由を明確に規定し、さらに経営状況に応じて調整できる仕組みを設けておくことが望まれます。

 

退職金規定を定めていると、会社としては、在職中に横領や背任、重大な規律違反などを行った従業員に対しても、退職金を支払う必要があるのかと疑問を持つと思います。

 

結論からいえば、適切な規定を整備し、行為の重大性を踏まえて運用すれば、非違行為を理由に退職金を不支給または減額することが可能です。会社としては、退職金規定に「非違行為があった場合は退職金を不支給または減額できる」旨を明記し、対象となる行為を具体的に列挙しておくことが不可欠です。さらに、不支給に限らず「減額」も可能とすることで、事案に応じた柔軟な対応ができます。

 

裁判例でも、横領や重大な背任行為といった悪質なケースでは、退職金を支払わない、あるいは一部のみ支給することが認められています。もっとも、就業規則等に非違行為があった場合に退職金を不支給または減額する旨の明文の根拠がなければ、不支給は無効と判断されるリスクが高まります。

今後のトラブルを防ぐ、「退職金規定」作成5つのポイント

退職金は従業員の将来設計に直結する一方で、会社にとっては大きな財務負担となります。そのため、規定をあいまいにしたまま運用すると、予期せぬ高額請求やトラブルにつながりかねません。作成する際には、次の5つのポイントを明確にしておくことが重要です。

 

1.支給対象者の範囲

正社員のみか、パート・契約社員も含むのかなど、対象者を明確に規定します。

 

2.支給要件と退職理由ごとの取扱い

自己都合、会社都合、定年、懲戒解雇など、退職理由に応じた支給の有無や計算方法を定めておく必要があります。

 

3.算定方法と上限額

「基本給×勤続年数×支給率」といった算式を明確に示すとともに、会社の経営に支障が出ないよう上限額を設けることも有効です。

 

4.不支給・減額事由

横領や背任などの非違行為を行った場合や、会社に重大な損害を与えた場合には、不支給または減額できる旨を規定しておきます。

 

5.経営状況に応じた柔軟性

「会社の経営状況により支給額を減額または支給しない場合がある」といった条項を盛り込むことで、予期せぬ経営リスクを避けることができます。

 

退職金規定は一度定めると会社と従業員双方に強い拘束力を持ちます。のちの紛争を防ぐためにも、専門家のチェックを受けながら慎重に設計することが不可欠です。

 

 

林 遥平

弁護士法人かける法律事務所

弁護士

 

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