母を見送り、会社員をしながら父の世話を…
「母は8年前に他界しました。祖父母の家がもともと裕福だったようで、生まれてから一度も働いたことがない人です。おっとりした、天然っぽい人でしたが、なにを話してもいまひとつ嚙み合わないというか(苦笑)。真剣な相談はできない人でした」
母親が亡くなったあと「父親の身の回りの世話」というミッションは、自動的に陽子さんへスライドしてきました。
朝6時に起床するとすぐ洗濯と朝食の準備。父親を起こして食事をすませ、昼食の準備をしてテーブルに並べておき、洗い物をして洗濯物を干してから、会社に出勤。帰宅したらすぐ夕食を準備して父親に食べさせると、汚れ物を片付け、お風呂を沸かし、洗濯物をたたんでタンスにしまい、父親に声をかけてお風呂を促し、父親が寝室に行ったのを見計らって自分が食事とお風呂を…という生活サイクルです。
「仕事と父親の世話以外、ほとんどなにもできません。友人と食事に行くこともできないですね…」
父が認知症に…途方に暮れて会社で泣いてしまった日
しかし、そのような日常に異変が生じました。父親に、ゆっくり認知症の兆候が出てきたのです。
「なんとなく、言動がおかしいな…というのが始まりでした。それから、いつも探し物をするようになり、食事を食べたことも忘れるようになり…」
父親の世話に手間取り、遅刻してしまう日も増えたといいます。
「父をひとり家に置いておくのも、気が気ではありませんでした。弟のお嫁さんはパートだったと記憶していたので、SOSの連絡をしたこともあるのですが、〈あらぁ、それは大変。隼人さん(仮名)に伝えておきますね〉とだけいわれてナシのつぶて。弟の携帯にも連絡しましたが、折り返しはありませんでした」
あまりに疲弊した陽子さんは、ある日、会社の昼休みに泣いてしまいました。すると、それに驚いた同僚の女性が声をかけてくれたのです。その人は、舅と姑の介護を経験しており「最終的には2人とも施設に入所してもらった」と教えてくれました。
「ダメよ、お父様には施設に入っていただいた方がいいわ…」
