節税メリットが期待できる「相続時精算課税制度」の賢い利用法、暦年贈与の際は注意を要する「3年内加算」のルールについて例を見ながら解説します。

相続時精算課税制度で「現金収入の分散化」を図る

相続税対策のためにアパートを建てたものの15年も経つとローンもなくなり、賃料収入の取り分が多くなり所得税の負担もそれなりの額になるケースがあります。

 

賃料収入による相続財産の蓄積を避けるためには、子にアパートの建物だけを贈与する方法があります。建物の評価として用いる固定資産税評価額は、市場価格などより低い設定になっているので贈与税も高額にはなりません。

 

さらに「相続時精算課税制度」を使えば2500万円まで贈与税が免除されます。非課税枠の2500万円を超えた部分については、一律20%の贈与税がかかります。

 

また、子には賃料収入が入りますから、贈与税の納税資金に回すことができますし、将来の相続税の納税資金にもすることができます。このように、現金収入の分散化は、相続税対策のキーポイントです。

 

ただし、相続時精算課税制度は、いくつか使い方にコツを要します。

 

まず、父と長男、母と長女という具合に贈与をする人(贈与者)と贈与を受ける人(受贈者)を選定できますので、誰に対して相続時精算課税制度を利用するのか慎重に考える必要があります。

 

親子関係での贈与では2500万円まで贈与税が非課税となりますが、平成27年1月1日からは祖父母と孫の関係でも適用されるようになりました。また、年齢による制限もあります。受贈者は20歳以上、贈与者は60歳以上が条件です。

 

この制度を父と長男の間で一度使うと、父から長男への暦年贈与はその後使えませんが、母と長男というように組み合わせを変えれば、暦年贈与を使うことは可能です。

 

そして、これがこの制度の一番大きな特徴なのですが、制度を使って贈与をした場合、相続の際に贈与した額をもう一度、相続財産に加算して相続税の計算をしなければなりません。その場合の計算は、「相続時」ではなく「贈与時」の評価額で行います。

 

これは何を意味するかというと、たとえば、土地を贈与した時の評価額が3000万円だったとします。その土地が相続時に5000万円に値上がりしていても、逆に1000万円に値下がりしていても、相続税の計算は贈与時の3000万円で評価するということです。

 

相続時に値上がりしていれば、生前に贈与しておいたほうが税金面で得だったということになります。逆に、値下がりしていれば、何もせず相続したほうが得だったということになります。

 

将来的に評価が上がりそうな資産には、次のようなものがあります。これらを優先的に相続時精算課税制度で贈与すれば、後の相続時に節税メリットを期待できます。


●着実に収入を生む収益物件
●電車の駅ができる、幹線道路が整備されるなど開発予定地のそばにある不動産
●右肩上がりでの成長が見込めそうな会社の株式
●正面は親が所有している土地で、その奥の土地(正面の土地を相続したら奥の土地の評価も上がる)

暦年贈与では注意したい「3年内加算」のルール

前回ご説明した暦年贈与ですが、こちらを行う場合に気をつけなければいけないことがあります。それが「3年内加算」のルールです。

 

これは、相続が起こる3年以内の贈与は、贈与税を納めていても、いったんその贈与がなかったことにして相続財産に取り込み、相続税の計算をするというものです。贈与税と相続税の二重払いにならないよう、相続税額からすでに納めた贈与税分は差し引くことになっています。3年内加算されたからといって、決して損をするわけではありません。ただ、先に贈与税を支払って財産の移転をしておき、将来の相続税で得をしようと思っていた人にとっては、それがご破算になってしまう点が悔しいと感じるかもしれません。

 

この3年内加算は、相続人と、遺言によって財産を取得した人にのみ適用になります。ですから、このルールを避けようと思えば、法定相続人ではない孫や相続人の配偶者に対して贈与を行えばいいのです。

 

その具体的な例を紹介しておきます。以下の図を見てください。

 

90代の母が3棟のアパートを所有していました。そのうちの1棟はローンもなく、毎年2100万円の収入をもたらす優良物件です。子は60代の息子が1人のみ。息子には妻と成人した子(母にとっては孫)が2人います。母が持つこの優良物件を、息子の妻と孫2人の計3人に贈与しました。

 

購入すれば2億円はする建物ですが、固定資産税評価額にすると5400万円です。さらにアパートや貸家、貸店舗などの不動産は固定資産税評価額の7割の評価に減額できるので、3780万円に評価額が下がります。これを3人に贈与すれば1人あたり1260万円の財産評価額です。贈与税は次の計算式から、1人あたり350万円になります。


(1260万円-暦年贈与の非課税枠110万円)×税率50% -控除額225万円=350万円

 

贈与税が350万円もするのかと思うかもしれませんが、もとは2億円の建物です。しかも毎年各人に2100万円の3分の1である700万円ずつの賃料収入が見込めるので、350万円の贈与税を贈与された翌年の1回だけ支払ったところで、半年ですぐに取り戻せるのです。

本連載は、2013年11月1日刊行の書籍『相続税対策は顧問税理士に頼むと必ず失敗する』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税対策は 顧問税理士に頼むと必ず失敗する

相続税対策は 顧問税理士に頼むと必ず失敗する

田中 誠

幻冬舎メディアコンサルティング

税のプロとして認識されている税理士にも得意不得意分野があります。特に不動産を含む資産税に関する対策は、その実務経験がものをいいます。つまり、相続税対策はどの税理士に頼むかで、結果が大きく変わるのです。 本書は、…

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