(※写真はイメージです/PIXTA)

「失われた30年」からの脱却へ、日本に眠る2200兆円の個人資産の活用が急務となっています。その鍵となるのがスタートアップ投資ですが、近年、制度改正によって一般個人にも非上場株投資の道が拓かれました。これは日本経済再生の大きな好機といえます。本記事では、HiJoJo Partnersの創業者で、ユニコーン企業に投資するファンドの販売に携わっているメンザス・スピリドン氏による著書『ユニコーン投資のロマンとリアル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、スタートアップ投資が日本社会にもたらすインパクトと、経済再生への展望について解説します。

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日本で非上場株投資の新しい波が来ている

2024年、業界団体である投資信託協会が自主規制ルールを改正し、一般の個人投資家向けの投資信託に総資産総額の15%を上限として非上場株を組み入れることができるようにした。この改正により、日本でも「クロスオーバー投信」への扉が開かれた。この流れを受けて、野村アセットマネジメントやレオス・キャピタルワークス、三菱UFJアセットマネジメント、新興のfundnoteといった投信会社がクロスオーバー投信の販売を始めている。

 

米国ではすでにこうした商品が広く普及しており、日本もようやく追いついてきたという感はあるが、ゼロだった状態から実際に投資信託商品が登場し、一般の個人投資家に対して非上場株投資への道が拓かれた意義は非常に大きい。

 

しかも、これらのクロスオーバー投信が投資対象とする非上場企業は、レイトステージの企業が中心だという。これまで一般の個人投資家は株式投資型クラウドファンディングでアーリーステージの企業には投資できたが、それ以降はIPOまで投資機会がほとんどなかったことを考えても画期的だ。

 

これらの投資信託は米国のクロスオーバー投信と同様、上場株への投資が中心で、非上場株への投資割合はごくわずかだ。これは、広く一般の個人投資家が買える金融商品については、リスク観点から非上場株投資の割合を一定限度に抑えるという意図も少なからずあると思われる。落としどころとしてはほどよい水準であると思う。

 

また、金融庁は2025年2月に、株式投資型クラウドファンディングの規制を緩和する政令を施行した。これまでは、非上場企業が株式投資型クラウドファンディングを活用して資金調達できる額は1億円までとされていたが、その上限を5億円に引き上げる内容となっている。

 

この規制緩和によりミドルステージ以降の企業による利用が拡大することが考えられる。個人が投資できる額も50万円から200万円へ引き上げられ、よりステージが進んだスタートアップに投資できる機会の拡大も期待される。

 

一般的な個人投資家はクロスオーバー投信を選び、よりリスクを取れる投資家で銘柄選択の意思決定を投資に反映したいという人はターゲット・ファンドや株式投資型クラウドファンディングを活用する、というように、選択肢が広がったことはとても楽しみに思う。反面、クロスオーバー投信が人気になりすぎると、別の問題が生じることも考えられる。日本の非上場株の規模は、米国のそれに比べまだ小さく、ユニコーンやその予備軍自体の数も少ないゆえに、例えば、数多くの投信が一気にこうした銘柄を組み入れ始めるような状況になればそれらの買いでバリュエーションがつり上げられるようなことも考えられる。SpaceXやOpenAIのように時価総額が巨大な企業であればそのような心配はないのだろうが、特定の企業に投資が集中するとこうした弊害もあり得ると想定できる。

スタートアップの成長は、日本を変える力になれる

なぜ政府がこのようにスタートアップ支援に熱心なのか、それは、スタートアップが生まれ、成長することで将来の雇用や所得、財政の新たな担い手となり、日本経済の活性化につながるからではないだろうか。

 

SpaceXは現在、開示こそしていないが、1万人を超える従業員を雇用しているといわれている。当然ながら、ビジネスをすべて社内で内製化しているわけではなく、幅広いパートナー企業や外注先、そして顧客と取引している。要するに、彼らのビジネスに関わり、恩恵を受けている人たちはおそらく何十万人規模で存在する。

 

同社が創業したのは2002年だが、それ以前にはゼロだったビジネスが、ここまで大きくなっている。これは、確実に米国経済の活性化につながっており、米国以外の国の経済活動にも波及する。SpaceXほどの規模ではなくても、ユニコーンやその予備軍が続々と誕生する社会では、常に新しいビジネスが成長し、活気に満ちていることは想像に難くない。しかもスタートアップは経済を活発化させるだけの存在ではない。ニーズのある事業を生み出し、社会の課題を解決していく側面もある。

 

スタートアップは、育つのが早く、メルカリは創業から5年も経たないうちにユニコーン化し、Sakana AI に至っては、設立して1年以内にユニコーン企業の仲間入りをした。優秀な起業家と有望なスタートアップというのは、かくも短期間にビジネスを発展させ、ひとつの都市ほどの規模の経済を動かす存在になる可能性を秘めている。日本においても数々の社会問題が山積しており、少子高齢化や地方の過疎化、空き家問題なども含め、現在進行形でさまざまな取り組みがなされているが、スタートアップがこれらに変革をもたらす可能性も大いにあると考える。

 

数ある社会課題に対しても、たくさんのスタートアップが新しいビジネスを通してアプローチを続けることで、解決に近づく可能性は決して低くはないはずだ。ユニコーン規模まで成長できるスタートアップは一握りではあるが、起業する人の母数を増やし、ユニコーン予備軍のような企業を増やしていけば、1社2社と着実にユニコーンは現れて、日本の経済と社会は活性化する。日本政府はまさにそこに、将来の活路を見いだしているのだと考える。

 

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本連載は、2025年9月19日に刊行されたメンザス・スピリドン氏の著書『ユニコーン投資のロマンとリアル』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部抜粋・再編集したものです。

ユニコーン投資のロマンとリアル

ユニコーン投資のロマンとリアル

メンザス・スピリドン

幻冬舎メディアコンサルティング

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