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投資に必要なのは北風ではなく太陽
魅力的な企業への投資機会について考えていた時期のある夜のこと、私は幼い息子を寝かしつけるためになにか読んでやろうと、『北風と太陽』を手に取った。これはどちらが強いかで張り合っていた北風と太陽が、たまたま通りかかった旅人のコートをどちらが早く脱がせることができるかを競うという、有名なイソップ寓話(ぐうわ)だ。
北風は旅人のコートを吹き飛ばそうと強く風を吹き付けるが、当の旅人はあまりの寒さにコートを飛ばされないようぎゅっとつかんで守ろうとする。コートを脱がせるという意味ではまったく逆効果となった。ところが、太陽が暖かい日差しをさんさんと浴びせると、旅人は暑さのあまり自らコートを脱いで太陽が勝利を収めたという話である。
私はこの話を読み聞かせながら、あることを思い出した。「貯蓄から投資へ」という政府のキャッチフレーズだ。2001年に小泉内閣が発表した骨太の方針で、このキャッチフレーズが登場して以来、政府は日本の個人金融資産の過半を占める預貯金をリスク資産に回すことで、個人の資産形成と株式市場の活性化を目指してきた。
証券優遇税制の税率軽減や規制緩和、利益に課税されずに投資ができる旧NISA(少額投資非課税制度)のスタートやiDeCo(個人型確定拠出年金)の拡充などさまざまな施策も打ち出してきた。
これらの取り組みは一定の成果を上げてはいたものの、この20年以上、個人金融資産の大半が現預金という状況はまったく変わっておらず、政府が見込んだようなムーブメントは起こらなかった。政府がどれほど積極的に投資を促し、投資減税や助成金などの優遇措置を整えても、期待したほど投資の裾野は広がらない。
私はこの絵本を読んで「貯蓄から投資へ」を実現するために必要なのは、太陽のような存在だと考えた。誰かに促されるまでもなく、自発的にその成長可能性に賭けたいと思える投資対象だ。
折しも、2016年当時の日本では、上場が決まった企業の株を上場前に手に入れる「IPO投資」が大人気であった。個人投資家は証券会社が配分するごく限られたIPO株を獲得しようと、あの手この手で証券会社に恩を売ろうとしていた。
また、メルカリやスマートニュースなど、一般消費者にとって身近なビジネスを手掛けるユニコーン企業が頭角を現し始めていた。その熱気が広がるなかで、非上場スタートアップへの注目度も、かつてないほどに高まっていた。
上場前の企業への関心や投資ニーズは、十分に存在していた。「もし個人が投資できるしくみが整えば、社会は大きく変わるかもしれない」そう感じた。
SpaceXの評価額がUberの6分の1というのはあまりにも安い
私はコロンビア大学でエンジニアリングやコンピューターサイエンスを専攻し、1995年にソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現シティグループ証券)に新卒で入社、プログラマーとしてキャリアをスタートした。
ITのバックグラウンドを活かしながら金融の現場で経験を積むなかで、次第に「金融×テクノロジー」への関心が高まっていった。その後2010年37歳のときにみずほ証券に勤める機会を得た。エクイティ本部共同本部長の役職を得て、機関投資家への営業や株の自己売買、上場企業と機関投資家をマッチングさせるビジネスを指揮する日々を送っていたのだが、やがて会社を辞めて起業し、アジアのフィンテック企業に投資するファンドを立ち上げたいという思いが芽生えた。
上長にその意向を伝えたところ、「慌てて辞めず、在籍したまま事業化できないか検討してみては」と慰留された。ちょうどその頃、みずほ証券がアジア地域での投資を強化しようとしていたタイミングだったことから、2016年にスタートアップ投資を担う投資業務部に異動して、フィンテック領域のスタートアップを主な投資対象として担当することになった。
金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を掛け合わせたフィンテックは、金融とITの両方のバックグラウンドを持っている私にとってはまさに得意領域だった。当時、米国を中心に、キャッシュレス決済やモバイル送金、ロボアドバイザー投資、ソーシャルレンディングといったフィンテック領域の企業が急成長を遂げていた。
こうした新興企業の多くは上場しておらず、ユニコーン企業と呼ばれて注目を集めるようになっており、私はこうした分野で有望視されるユニコーン企業に投資できる機会を、投資家に提供するためのビジネスを考えていた。
ユニコーン企業とは、評価額が10億ドル以上の非上場スタートアップ企業を指す。日本では2016年当時も今も数えるほどしかないが、米国ではすでに多くの有望スタートアップがユニコーン化していた。
当時、世界のユニコーン企業のなかで、最も規模が大きく、注目されていた企業の一つに、UberTechnologies(以下Uber)があった。現在の日本ではUberEatsというフードデリバリーサービスが普及しているが、Uberの本業はタクシー感覚で利用できるライドシェアサービスで、最近日本でも徐々に浸透してきている。飛ぶ鳥を落とす勢いだったUberの評価額は、2016年当時650億ドル(約7兆円)で、これは当時の日本の三菱UFJフィナンシャル・グループの時価総額に匹敵する額だった。
私は創業して10年にも満たない非上場企業がここまで大きくなっていることに驚き、それならばほかのユニコーンにはどんな企業があるのかと、片っ端から調べ始めた際に出会ったのがSpaceXだった。
確かに一発で3万人もの雇用を生み出したUberが画期的なサービスであることに疑いはなかった。しかし、同様のビジネスを展開するLyftやGrabなどの競合も、世界各地で急成長していた。要するに、この会社でなければできないビジネスというわけではなく、ビジネスとして参入障壁が低かったということだ。
2016年当時、SpaceXも有力ユニコーンの一つに数えられていたが、その評価はUberには遠く及ばなかった。時価総額を調べたところ100億ドルで、当時のレートで日本円にして1兆円あまりの価値だとみなされていたことになる。
宇宙開発という極めて参入障壁が高い分野で輝かしい実績を上げている企業が、競合が多く登場しているUberの6分の1の評価額だというのは低すぎるのではないか。そう思っていろいろと調べているうちに、冒頭の動画にたどり着いたのだ。
