(※写真はイメージです/PIXTA)

巨大テック企業GAFAの次なる存在を探す、非上場株投資。そこは冷徹なデータ分析と卓越したスキルがすべてを決める、実力主義の世界だと思われがちです。しかし、数多の投資案件の成否を分けるのは、意外にも極めてウェットな「人間関係」や「信頼関係」にあります。本記事では、HiJoJo Partnersの創業者で、ユニコーン企業に投資するファンドの販売に携わっているメンザス・スピリドン氏による著書『ユニコーン投資のロマンとリアル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、なぜトップ投資家たちがそれほどまでにネットワークを重視するのか、その理由と、信頼関係を築いた先にある厳格な投資判断の基準について解説します。

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非上場株投資の肝は「ネットワーク」と「信頼関係」

スタートアップ企業やベンチャーキャピタル、機関投資家が主な登場人物である非上場株投資の世界は、実力主義のドライな世界に見えるかもしれない。主たる舞台が米国の金融業界であることを考えれば、それも正解ではあるのだが、実は非常にウェットで人間関係や信頼関係がものをいう世界でもある。

 

それを踏まえて私は、米国出張の際は最初から予定を詰め込まず、あえてゆとりのある設定にし、現地で新しい予定をどんどん入れることにしている。まずはディナーの予定が、次にランチが、どちらもいっぱいになると朝食やお茶をともにすることになる。出張時は、一日中常に誰かと飲食しながら話をしているような状態だ。

 

幸い、米国の非上場株投資の世界に日本のプレーヤーはほとんどいないので、私が出ていくだけで珍しがってもらえている。当然、頼ってばかりというわけにはいかないので、私や私の会社が持つ日本国内のネットワークを活用し、彼らの力になれることや喜ばれることがないかについて、常にアンテナを張り巡らせている。

投資の可否を決定するデューデリジェンス 

私の会社が組成し販売しているのはターゲット・ファンドといって、特定の個別企業に投資するファンドだ。実質的には個別株投資のようなもので、投資先を選定して投資家に販売するまでにさまざまな工程を経る必要があり、慎重に判断している。そのための重要なプロセスが、デューデリジェンスだ。投資先候補を絞り込んだら、一般にはあまり知られていない企業に対してはもちろんだが、有名企業であっても改めて徹底的なデューデリジェンスを行い、本当にここからの成長が見込めるかどうかを検証する。

 

必要な情報については直接その企業にアクセスするか、その企業にすでに投資している投資家にあたって、財務諸表や事業計画を入手し、可能な限り投資先企業の経営陣と面談をして、顧客の資金を投じるファンドの基準に合致しているかについて、詳細に調査し分析していく。具体的には、主に次の項目について評価している。

 

①事業ステージ

スタートアップには、まだビジネスアイデアの状態であるシードステージから、プロダクト開発を進める段階であるアーリーステージ、市場にプロダクトを投入し事業を拡大していく段階であるミドルステージ、事業が成熟し市場での地位を強化していく段階であるレイトステージに大きく分けられる。

 

初期の段階ほどハイリスクハイリターンで、ステージが進むほどリターンは小さくなるがリスクも下がる。私の会社のファンドは、2~3年の投資期間で評価が2~3倍になることが期待できる投資先を目安としているので、最もリスクが低く上場が視野に入るレイトステージの企業が中心となる。特に優位性がある技術やプロダクトを持っている企業の場合は、ミドルステージも候補に加える。海外企業の場合は直近の資金調達がシリーズC以降、日本企業であればシリーズB以降を条件とする。

 

②ビジネスの実態

その企業のビジネスに競争力や優位性があるかどうかも重要なポイントだ。レイトステージでは差別化されたビジネスモデルを持ち、その企業が提供するプロダクトが市場に流通できていることを条件とする。ミドルステージの場合は、流通ができていなくても、今後の成長を支える技術やサービスが革新的で、明らかな他者優位性があれば投資候補に加える。

 

③売上

レイトステージでは安定した収益源が確立し、売上が順調に増加していることが必要だ。なかにはまだ売上を計上できていない企業もあるが、見通しが立っていれば売上がないという理由だけで排除することはない。ミドルステージの企業であっても同様だ。

 

④収益力

成長過程にあるスタートアップの多くは経常利益やEBITDAが赤字だが、そうであっても販売管理費を差し引くまでの売上総利益が黒字化しているか、黒字転換を実現するまでのマイルストーンが説明できなければならない。ただ、ミドルステージの企業に対してはそこまでは求めないこともある。

 

⑤財務体質

レイトステージの場合は会社からの出資がなかったとしても、向こう2年分、新規調達する場合は最低でも9カ月以上の事業運転資金が確保されていることが望ましい。私の会社以外のファンドなどから調達することにより、それが確保できる見通しがある場合は問題ない。ミドルステージであれば6カ月程度を目安としている。

 

⑥エグジット

レイトステージの場合は、向こう3年程度で上場できる目途が立っていることが必要だ。特に日本のスタートアップの場合はセカンダリー・マーケットでの売却は難しいので、主幹事証券や会計監査法人が決定しているなど、IPOに向けた具体的なプロセスが進行していなければならない。米国企業の場合は、仮にIPOできなかったとしても、セカンダリーで売却できるだけの需要と流動性が見込める銘柄であれば、問題ないと判断する場合もある。

 

しかし、上場できるかどうかは市場環境にも大きく左右されるので、その企業だけではどうにもならない面もある。だからこそ、セカンダリー・マーケットでの流動性は極めて重要だ。ミドルステージの場合は、具体的な上場準備が進んでいることまでは求めないが、なんらかのエグジットが合理的に期待できる状況であるべきだ。また、投資対象の企業がすでに黒字化している場合は上場を急いでいないこともあるが、ファンドの満期を迎えるタイミングで売却できる見込みがどの程度あるか、その需給についても把握するようにしている。

 

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本連載は、2025年9月19日に刊行されたメンザス・スピリドン氏の著書『ユニコーン投資のロマンとリアル』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部抜粋・再編集したものです。

ユニコーン投資のロマンとリアル

ユニコーン投資のロマンとリアル

メンザス・スピリドン

幻冬舎メディアコンサルティング

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