「後悔しているなんて、言えないけど…」
和子さんは、週に1度ヘルパーさんの支援を受けながら、浩一さんと慎ましく暮らしています。ただ、長男との関係はそれ以来ほとんど途絶えたままです。
「生前贈与してしまったことで、大きな揉め事になるなんて思いませんでした。迷惑をかけたくなくて、先に準備したつもりだったのに…」
涙を浮かべながらそう語る和子さんに、浩一さんは「母さんが決めたことだろ?」と、むしろ苛立ちを隠しません。
高齢の親と同居する子どもが、「介護の見返り」として実家を相続する――。こうしたケースは、実際に相続の場面でも少なくありません。
ただし、民法上では「介護に特別な貢献があった」と認められた場合にのみ、「寄与分」として相続分に上乗せされる可能性があります。家族のあいだで暗黙の了解があったとしても、他の相続人への十分な説明や合意形成を怠ると、後々トラブルに発展しかねません。
また、実家を贈与された親がその後に要介護状態になった場合、「資産を意図的に減らした」と判断されて、介護施設の費用補助(補足給付など)や生活保護の支援対象外となることもあります。
「将来は実家を継ぎたい」「親と同居しているから自分がもらうのが当然」といった思いがある場合こそ、家族全員で早めに話し合い、必要に応じて弁護士や司法書士といった専門家に相談することが、なによりの備えになります。
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