「親孝行しか、残された道がない」
「失敗してきた人生でした。過労で退職して、転職もうまくいかず、気づいたら40歳。結婚もしていないし、将来の展望も見えません。でも、せめて親孝行だけでもできたらと思っているんです」
そう語る佐藤さんの目には、どこか覚悟のような静けさがありました。
「わかっています。40歳で実家暮らし、独身。ご近所さんの目は正直、気になりますよ。でも、うちはうちの事情がある。お互いに支え合って生きている。それだけは、わかってほしいですね」
介護保険制度や生活支援サービス、地域包括支援センターなど、高齢者やその家族を支援する仕組みは存在します。しかし、その多くは「申請主義」。本人または家族が制度を理解し、積極的に手続きを取らなければ支援につながりにくいのが現実です。
また佐藤さんのような世帯では、手続き・介護・収入面のすべてが1人に集中し、心身ともに疲弊していくケースも増えています。
国勢調査によれば、40代男性の独身率は約30%、今後は「未婚のまま親の介護に直面する中年男性」は決してレアケースではなくなります。
過労、再就職難、親の老後、介護、貯金ゼロ。佐藤さんの生きづらさは、現代の日本社会が抱える複雑な問題を象徴しているのかもしれません。
