「実家に戻ったら、もう抜け出せなくなりました」
佐藤さん(40歳・仮名)は、大学卒業後、エンジニアとして6年間勤務していました。しかし過労で倒れ、やむなく退職。その後1年間の休養を経て社会復帰したものの、どの職場も長く続かず、4年前に実家に戻りました。
現在は司法書士事務所で事務員として働いており、月の手取りは約17万円。都心まで電車で1時間ほどの首都圏近郊、築20年の2LDK賃貸(家賃11万円)に、両親と3人で暮らしています。
「一人暮らしは厳しいというか、正直、無理な金額ですよね。今後も、両親と一緒に暮らしていく予定です」
佐藤さんが実家を出られない理由には、経済的な事情もありました。
「父も母も昔は自営業で、年金保険料を十分に払っていなかった時期があったようです。2人合わせても月10万円あるかないかくらい。だから、私の収入がなかったら生活が難しいんです」
厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、老齢厚生年金(第1号)の平均月額は約14万7,360円。一方、国民年金のみの受給者では月額平均5万7,700円と、単身生活すらままならない水準です。
佐藤さん一家の収入は3人合わせて約30万円弱。そこから家賃11万円、水道光熱費3万円、食費・日用品5万円を差し引くと、残るのは10万円程度。医療費や突発的な出費があれば、貯金はおろか、赤字になることも珍しくないといいます。
「生活はカツカツです。老後資金なんて全然たまらないし、親の入院が続いたら一気に詰みますよ」
経済的な不安に加えて、佐藤さんには“孤立”への不安もあります。
「一人っ子ですし、親戚ともほとんど連絡を取っていません。何かあったら、私が全部対応するしかない。老人ホームに入れる余裕なんてないので、最終的には私が面倒を見るつもりです」
厚生労働省『令和4年 年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)』によると、高齢者単身世帯の支出額(月額)の中央値は男性14.3万円、女性12.2万円。共働き世帯でさえ家計が圧迫されるなか、単身者や“親子で年金+手取り20万円弱”の家庭が抱える負担は、想像以上に重いのです。
