外国の専門家も驚く独特な日本の信託税制。外国信託を組成する際に留意しなければならないこと【弁護士が解説】

外国の専門家も驚く独特な日本の信託税制。外国信託を組成する際に留意しなければならないこと【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

外国信託とは、外国の準拠法に基づいて、外国で組成された信託を指します。外国信託を利用する日本居住者も少なくありませんが、日本の信託税制は諸外国と比較すると独特で、その点を理解していない外国専門家が組成することで思わぬ問題が発生することがあります。本稿では、外国信託の日本での法務・税務の取扱いに関する留意点について、解説します。

◆税務上の取扱い

1. 日本の信託に関する課税

信託に対する課税は、複数の類型に分けて課税ルールが決まっています。民事信託に関係する課税ルールとしては、受益者課税信託と受益者の存しない信託が主に問題となります。

 

日本の課税関係は、経済的実質にしたがって組み立てられます。受益者としての権利を現に有する者がいる場合、日本の税務上、受託者は名義上形式的には信託財産の所有者とはいえますが、受益者が経済的実質を得ているとみなし、信託財産に帰属する資産・負債・収益及び費用のすべてが受益者に帰属するものとして所得税が課税されます(所得税法13条1項)。

 

適正な対価を負担せずに信託受益者となる場合、その受益者は、信託効力発生時に、信託に関する権利を委託者から贈与・遺贈により取得したとみなされます(相続税法9条の2第1項)。日本の民事信託の場合、受益者を指定していることが多いため、この受益者課税原則が適用されることになります。

 

一方、受益者等が在しない信託については、受託者に法人税が課税されることになります(法人税法4条の2第1項)。

 

受益者等が存しない信託とは、「将来誕生するかもしれない孫に財産を取得させる信託を設定する」というように、受益者が現在存在していない信託をいい、受託者には贈与があったとして法人税課税がなされ)(所得税法6条の3第7項)、委託者には受託法人に対する贈与を行ったとして、委託者が個人である場合は、みなし譲渡所得(所得税法59条)が発生することがあります。

 

さらに、将来存在する受益者等となる者が、委託者の親族であるときは、相続税・贈与税が課税され(相続税法9条の4第1項)、既に支払済みの法人税は控除されます。

 

受益者等が存しない信託は、相続税に関する基礎控除や配偶者控除の適用がありません。また、受益者等の存しない信託の場合、設定時に受託者法人に贈与したとて法人税課税されるため、キャピタルゲイン課税が相続、贈与によって繰り延べられることなく、みなし譲渡課税がされることになります。

 

受益者等が存しない信託への課税ルールは、世代を飛ばすことで相続税・贈与税を回避する信託を利用した租税回避を目的とした将来の受益者に対する代替課税ともいえますが、通常の相続・贈与と比較して過大な課税にもなることに留意が必要です。

 

2. 外国(米国)の信託に関する課税

米国の民事信託は、信託期間中、信託から生じる利益は原則として信託に対し課税され、受益者に分配される場合は、課税所得から控除され、受益者に課税されます。したがって、受益者に分配されない限り、受益者は課税されないのが原則です。

 

また、信託への財産譲渡は、贈与税の対象になるものの、市場価格での委託者によるみなし実現があったとはされず、委託者の負担で委託者が譲渡をして信託が取得したとみなされます。

 

ただ、委託者が、信託の財産の元本、収益又はその双方について、実質的な支配権を有している場合(グランタートラスト)は、信託に対し課税されることなく、委託者に所得税・遺産税が課税されることとなります。

 

米国以外の他国の制度もそれぞれ微妙に異なりますが、信託の設定等にかかる相続税・贈与税及び受益者として何ら現実的な経済的利益を得ていないにもかかわらず課税される受益者課税信託は、外国の信託課税と比べるとかなり特異なものといえ、この信託課税の相違から、日本で外国信託の取扱いが問題となる場合、難しい問題が生じることがあります。

 

次ページ3. 外国信託の日本における税務上の取扱い
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