独居暮らしの78歳男性「いざとなったら娘に面倒を見てもらえる」
Aさん(78歳・男性)は、地方都市に在住。長年勤めあげた会社を定年退職し、静かな一人暮らしを送っていました。数年前に妻を亡くし、以来、自宅で慎ましく暮らしています。
しかし、70代後半になり、体力の衰えをはっきりと感じるように。 「この先、介護が必要になったらどうなるのだろう」と不安が胸をよぎることもありました。
ただ、Aさんには2人の娘がいます。いずれも自宅から車で30分圏内に暮らしており、孫の顔を見せに訪れることもある距離感です。Aさんの心の中には、「いざとなれば娘たちが助けてくれるだろう」という淡い期待がありました。
特に次女は気が利く性格で、仕事も週3回程度のパート。ちょっとした買い物や手続きを頼んでも快く引き受けてくれるだろう――そんな安心感があったのです。
親の世話をするのはどっち?大学費用の差が生んだ姉妹の争い
介護への不安は、思わぬ形で的中しました。足腰の痛みが強くなって転倒することが増えたAさん。病院で検査を受けたところ、関節の変形と筋力の低下が進んでおり、日常生活に支障が出るようになったのです。
そのため、要介護認定を受けることに。「これから、いろいろと手伝ってもらうことが増えると思う。悪いけど、頼むよ」そう伝えました。しかし、想像もしなかった反応が返ってきたのです。
「介護はお姉ちゃんが中心になってやるべき。だって、私は地元の公立大学に通って、そんなにお金かけてもらってない。お姉ちゃんは一度東京に出て、私立大学に入って、仕送りもしてもらってたよね? 散々お金も愛情ももらったんだから、ここで恩返ししなきゃ」
Aさんは驚きました。まさか、数十年前の教育費のことを、今になって持ち出されるとは――。
確かに、Aさん夫婦は長女の進学に大きなお金を投じました。大学4年間で、仕送りと学費諸々850万円ほど。予想以上に金銭的負担が大きく、次女に対しては「長女の大学費用が大変だ」「お前に同じことをしてあげるのは、ちょっと難しいな」と、口にした記憶もあります。
次女は、それに対して文句を言ってきたことはありませんでしたが、次女は親が教育費で苦労しているのを見て、進学先を自由に選べなかったのでしょう。地元の公立大学に通い、4年間の大学費用は250万円程度でした。それが今、不満となって表れたのです。
一方の長女も、黙ってはいませんでした。
「一体いつの話をしてるの? 東京に行ってもいいと言ったのは親。私だって地元に行ってくれと言われたらそうしていた。なのに、そのことで私に全部押しつけるのは筋違いよ。私は仕事もフルタイムで忙しいって知ってるでしょ」
こうして、介護をめぐる押し付け合いが始まってしまったのです。
