「子育ては妻の役割」という一方的な思い込み
振り返れば、茂雄さんは「子育てはすべて妻の役割」と当然のように考えていました。それこそが、藤子さんの恨みを買う原因になってしまったのです。
仕事が忙しくても、会社での仕事の時間は限られています。それに対して、母親となった藤子さんには24時間365日、母親としての仕事が待っていました。茂雄さんが会社から帰ったあとにおむつ交換や赤ちゃんをお風呂に入れてあげるなど、もっと子育てに参加し、藤子さんを労るべきでした。
ところが実際には、産後どころか、その後も家事や育児は藤子さん任せ。義家族との関係でつらい思いをしても、茂雄さんは庇ってくれませんでした。ちょっとした出来事のたびに「やっぱり私を守ってくれない」と感じ、産後の恨みが薄れるどころか、折に触れて思い出されるようになったのです。
もちろん40年以上の結婚生活には、笑顔や感謝の思い出もありました。しかし、ふと立ち止まると、そこには「ずっと一人で背負わされてきた」という感覚が消えずに残っていました。
子育てが終わり、夫の定年退職を迎えたとき、藤子さんの胸にあったのは「これから先も一緒に過ごしたい」という温かい感情ではなく、「この人と老後を共にするのはもう無理」という冷めた思いだったのです。
せめて、たった一言でも「いつも子どもの面倒をみてくれてありがとう」と感謝を伝えていれば、藤子さんの心も救われたかもしれません。
