地域包括支援センターとの出会いが転機に
そんなとき、近所のスーパーで偶然会った元同僚から「地域包括支援センターに相談してみたら?」と勧められたのが転機となりました。
「最初は“生活保護とかそういう話かな”と構えていたんです。でも、実際に行ってみると、『60代の女性の生活困窮は珍しくない』『今からでも使える制度がある』と教えてもらえました」
センターの紹介で生活支援のNPOとつながり、今では週2回、買い物や掃除のサポートを受けながら、収支の見直しとともに生活保護ではなく「住居確保給付金」などの支援を受けています。
坂口さんは、いまも当時の旅先で撮った写真を大切にしています。ただし、最近は「そこに戻りたい」とは思わなくなったそうです。
「思い出に浸るのは、いまの暮らしが安定してからでいい。使ってしまったお金のことを後悔しても仕方ないし、“あの時はあの時”と割り切れるようになってきました」
高齢期における相続財産の使い方は、自由であると同時に「将来の生活保障」が失われるリスクとも隣り合わせです。
日本では、生活保護や住宅支援、就労支援、地域サポート団体など複数の支援制度が存在しますが、情報が届いていなかったり、「人に頼ることへの心理的な壁」が利用を妨げたりすることもあります。
坂口さんのように、「老後の自由な選択」の先に困難が訪れたとき、早い段階で公的機関に相談することは、再起のきっかけになります。
「思い出はお金では買えない」とよく言われます。しかし、老後の生活においては、「思い出だけでは生きていけない」という現実もまた、確かに存在します。
その両方のバランスをどうとるか――それが、“人生100年時代”を生きる私たちに求められている問いなのかもしれません。
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