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関税収入と国民負担
トランプ政権による関税措置は、ペンシルベニア大学の調査によれば1,270億ドルの収入を生み、前年同期比で約720億ドル増加しました。しかし、当初掲げられていた「年収20万ドル以下は所得税不要」という公約は実現していません。2022年度時点で、年収17万9,000ドル未満の納税者が納めた税額は6,000億ドルに達し、関税収入の増加では到底補えない状況です。
結局、関税は輸入業者を通じて国民が負担しており、国境の壁建設費用と同様に「国民にツケを回しているだけ」との批判が強まっています。
OBBBAの実態 … “Big”でも“Beautiful”でもない?
新税制「OBBBA」は名称こそ派手ですが、実態は“Big”でも“Beautiful”でもありません。ウォール・ストリート・ジャーナルも「政権の宣伝ほど美しいものではない」と指摘しています。
最大の理由は、多くの条項が時限立法であることです。見かけ上は大きな減税でも数年で失効するため、恒久的な恩恵にはつながりません。また、ほとんどの措置に所得制限が設けられており、高所得層は対象外か控除額が段階的に縮小される仕組みです。
さらに、制度設計上「独身者に有利」とされています。チップや時間外手当の非課税措置では、同じ収入水準であれば独身者の方が恩恵を受けやすく、夫婦合算申告者は不利になるケースが目立ちます。政権は「中間層の支援」を掲げましたが、実際には家族世帯よりも単身者を優遇する内容となっているのです。
主要な税制の内容
◆チップ
政権は「チップの非課税化で庶民に恩恵を与える」と強調しました。しかし実際には上限が設けられ、最大2万5,000ドルまでが非課税。さらに所得が一定水準を超えると控除額は縮小し、最終的には廃止されます。表向きは労働者に優しい制度ですが、中間層以下にしか恩恵が及びません。
◆時間外手当
時間外労働収入も非課税扱いになりますが、適用は収入の半分までで、上限は独身で1万2,500ドル、夫婦合算で2万5,000ドル。さらに、独身者は年収15万~27万5,000ドル、夫婦合算では30万~55万ドルの範囲で段階的に縮小されます。長時間労働しても高所得層にはほとんど効果がありません。
◆自動車ローン利息
住宅ローン控除を模した制度として、自動車ローンの利息控除が導入されました。最大1万ドルまで控除可能ですが、「最終組み立てが米国で行われた車」であることが条件。さらに、独身者で年収10万~15万ドル、夫婦合算で20万~25万ドルの所得制限があり、消費者にとっては使い勝手の悪い制度です。実態は産業保護色の強い仕組みといえます。
◆ギャンブル課税の強化
従来は「勝ち額と同額まで損失控除」が認められていましたが、新制度では「勝ち額の90%まで」に縮小。たとえば100万ドル勝って100万ドル負けても、10万ドルに課税されます。ネバダ州議員やプロギャンブラーは強く反発しており、IRS統計によれば2022年に約230万人がギャンブル収入を申告していました。下院では当初100%控除が認められていましたが、上院で90%に修正され、そのまま成立しました。
アメリカと日本の税制の違い
OBBBAは「庶民に有利」と見せかけながら、実際には制限や負担増が目立ちます。日本の税制が「扶養控除」「ガソリン税」といった比較的シンプルな論点で争点化するのに対し、アメリカの税制改正は極めて複雑です。これは、日本では年末調整で手続きが完結する一方、アメリカでは国民全員が確定申告を行うという制度の違いに起因します。
いずれにせよ、日本ではこの30年間、富裕層への減税は実施されていません。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾
