海外資産の“申告リスク”… 日米でこうも違う税務の現実、日本は情報取得重視、米国は口座残高超過ペナルティも【国際税理士が解説】

海外資産の“申告リスク”… 日米でこうも違う税務の現実、日本は情報取得重視、米国は口座残高超過ペナルティも【国際税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

海外に財産を持つ個人にとって、税務申告は軽視できない問題です。日本では「国外財産調書」による報告が義務付けられていますが、虚偽記載による直接罰則は限定的です。一方、米国ではFATCAやFBARにより、故意の申告漏れには口座残高を超える重いペナルティが科されることもあり、日米で制度の厳しさには大きな差があります。本記事では、両国の海外財産申告制度の違いと最新事例をわかりやすく解説します。

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海外財産申告制度の日米の違い

日本では、海外に5,000万円以上の財産を保有する者は、「国外財産調書」として税務署に報告する義務があります。しかし、国外財産調書に虚偽の記載をしても、直接的な罰金は課されません。ペナルティが発生するのは、その財産から生じる利子・配当・不動産収入を申告しなかった場合で、その加算税は不申告所得の5%です。たとえば、海外にアパートを所有しているにもかかわらず不動産収入を申告していなかった場合などが該当します。

 

国税庁の職員は約5万5,000人ですが、相続税など資産税を担当する税務署員は推定3,800人程度に限られており、少数の人員で海外資産の把握を進めています。近年の税制改正では、税務調査時に国外財産調書に記載すべき財産の取得・運用・処分に関する書類の提出が義務化され、期限内に提出しない場合は加算税が5%上乗せされるなど、軽減措置も受けられなくなりました。実際、海外資産として記載された有価証券の個別銘柄漏れなどで指摘されるケースも増えています。

CRSによる国際情報交換制度

こうした背景から、海外資産に関する情報を効率的に把握するため、国際的な情報交換制度が整備されました。代表的なものがCRS(共通報告基準)です。

 

CRSは、海外金融口座を利用した国際的な租税回避を防止するため、経済協力開発機構(OECD)が策定した自動交換制度です。現在、日本を含む100ヵ国以上が参加しており、参加国の金融機関は自国の税務上非居住者の口座情報を税務当局に報告する義務があります。報告された情報は、参加各国の税務当局間で相互に共有されます。CRSは各国の国内法に組み込まれ、現地法として適用されます。

 

ただし、日本国内での活用はまだ限定的であり、「大山鳴動して鼠一匹」ともいえる状況です。最大の要因は、アメリカ合衆国がCRSに加盟していないことです。

米国のFATCA・FBAR制度

米国では、米国市民やグリーンカード保持者は、海外に1万ドル(約147万円)以上の口座をすべて申告する義務があります(FATCA、FBAR)。報告を怠った場合のペナルティは非常に重く、故意の場合は口座残高の50%まで課され、複数年にわたる場合は累積して最大250%に達することもあります。

 

実例として、フロリダ州コーラルゲーブルズ在住のカール・ズワーナー氏(当時87歳)は、リヒテンシュタインとスイスに口座を開設していましたが、IRS(米国内国歳入庁)の調査で長期間にわたる申告漏れが発覚しました。最終的に、約180万ドルのペナルティを支払うことで和解しています。

 

また、ビーニー・ベイビーズのクリエーターであるタイ・ワーナー氏も、スイスに保有していた1億ドル(約100億円)の口座を長年申告せず、5,360万ドル(約5億4,000万円)のペナルティを科せられました。富裕層にとっては、口座残高を超えるペナルティが課される可能性があることは、極めて重い警告といえます。

 

米国はCRSに加盟していませんが、FATCAやFBARなど自国民の海外資産を把握する厳しい制度を整備しており、限定恩赦プログラムを通じた過去の対応も含め、海外資産の申告漏れには極めて厳格です。

日米制度の比較

日米の制度の違いをまとめてみます。

 

日本:国外財産調書は情報取得が中心。虚偽記載は直接罰則なし。加算税は不申告所得の5%。CRSにより国際的情報交換はあるが米国は非加盟。

米国:FATCA・FBARにより海外資産の申告は厳格。故意の申告漏れには口座残高の50%以上のペナルティも。CRS非加盟だが独自に厳しい監視体制。

 

富裕層や海外資産保有者にとって、日米での制度理解と申告遵守はリスク管理の要であり、特に米国ではペナルティの規模が桁違いである点が特徴です。

 

税理士法人奥村会計事務所 代表

奥村眞吾

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