世代継承性の類型にはどのようなものがあるか?
前回紹介した世代継承性は、親が子を産み育むという行為を通じて中年期の停滞感を克服して自己の心理的統合を図ろうとすること、つまり中年期の発達課題のことでした。では、この世代継承性の概念とは、親子間の現象だけを説明することなのでしょうか。この問いに対して、コートルは多様な世代継承性の類型を提示しています。
第一の特徴が、世代継承性の「対象」に関することです。自分の子どもに加え、企業の従業員などが対象とされています。つまり、先達の職人が次世代の職人に関わるようなことも含まれるのです。
第二の特徴が、世代継承される「内容」に関するものです。次世代への継承内容が、先代や先達からの技術や文化までを示す概念となっています。つまり、単なる親子間の躾だけではないのです(図表参照)。
【図表 世代継承性の類型】
二つの世代承継性が内在する老舗企業の事業承継
コートルが指摘する世代継承性の中で注目するべきなのが、「文化的世代継承性」です。コートルの世代継承性の類型の中で、この「文化的世代継承性」以外の類型のすべては、例えば、親と子、仕事上の上司と部下など隣接する二世代間に関するものです。他方、最後の「文化的世代継承性」とは、継承内容が文化や習慣を含み、数世代にわたる現象を説明する概念といえるでしょう。
これまでの考察を踏まえると、数世代にわたり代を重ねてきた老舗ファミリー企業(創業100年以上)の事業承継では、二つの世代継承性が内在されていることが示唆されます。
第一に、「親」としての現経営者から「子」としての後継者への二世代間にかかわる世代継承性です。つまり隣接する世代継承性のことになります(前回の連載を参照)。
第二に、先述の「文化的世代継承性」、つまり数世代にかかわる世代継承性のことです。老舗ファミリー企業の場合、後継者には創業以来の商慣習やしきたりが求められることが多くあります。老舗企業の経営者は、後継者に関与する際に、「親」としての性格に加えて、「伝統や慣習の継承者」としての役割をはたそうとする存在であるといえるでしょう。
言い換えれば、老舗企業の事業承継では、経営者が「伝統や慣習の継承者」と認識するからこそ、先代世代から事業を大切に預かり後継者に引き継がねばならないという思考と行動に繋がりやすいといえるのかもしれません。「文化的世代継承性」の概念によって、数世代にわたって事業承継されてきたような老舗企業の事例から、多くのことを学ぶことができるかもしれません。
<参考文献>
『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』(落合康裕、白桃書房、2016年)
『いまなぜ世代継承性なのか-その概念解明、基礎理論及び実践課題』(将来世代総合研究所編、将来世代国際財団、1999年)
Kotre, J. N. (1984) Outliving the Self. Generativity and interpretation of Lives. London: Hopkins University Press.
McAdams, D. P. & e St. Aubin ,E. (1992). A Theory of Generativity and Its Assessment Through Self-Report, Behavioral Acts, and Narrative Themes in Autobiography. Journal of Personality and Social Psychology, 62(6) 1003-1015.