かつては「親の墓を守ること」が当たり前でした。しかし今は、距離や生活環境、経済状況を考え、無理に負担を背負いたくないと考える人も少なくありません。東京都内で暮らす滝沢梨花さん(仮名・40歳)もその一人。長野の実家に暮らす母(75歳)から「墓を守ってほしい」と言われ、戸惑いを感じています。過去の宗教行事で振り回された経験や経済的な不安を抱える梨花さんは、母との関係を壊さず、負担の少ない形で母を供養する方法として、都内での樹木葬を提案することを考え始めました。

新しくお墓を購入した人のうち48.5%が樹木葬を選択

お墓の情報サイト「いいお墓」が実施した2025年の「第16回 お墓の消費者全国実態調査(2025年)」によると、新しくお墓を購入した人のうち48.5%が樹木葬を選んでいるそうです。次いで、一般墓(墓地に区画を設けて設置する墓石型のお墓)が17.0%、納骨堂(主に室内にある棚式やロッカー式のお墓・堂内陵墓も含む)が16.1%、合祀墓・合葬墓(複数の遺骨をひとつのお墓に埋葬し、その墓所の管理、運営者が遺族に代わって永代にわたって供養をするお墓)が14.6%となりました。一般墓は、従来からの供養の形として根強い支持がある一方で、全体の割合としては樹木葬と比べると低い水準にとどまっています。

 

お墓を購入する際に重視した点について、最も多かったのは「お墓の種類」(49.4%)でした。次いで、「金額」(41.9%)、「継承者不要」(36.7%)が続きました。購入したお墓の平均購入金額は、一般墓が155.7万円、樹木葬が67.8万円、納骨堂が79.3万円でした。

梨花さんが購入を検討している樹木葬は、「墓石を使用しないことが多く、一般墓と比べて低価格で購入できる点が特徴」です。

 

調査によると、「(樹木葬の特徴として)年間管理費について『かからない』と回答した割合は、83.0%と非常に高く、一般墓(28.5%)、納骨堂(46.7%)と比較しても維持費の負担が少ないことが分かります。このことから、一度購入すればその後の管理費が不要な点が、多くの人に選ばれる理由の一つになっていると考えられます」としています。

 

梨花さんは、自分が将来も実家には帰らないことを考えると、母にも都内近郊で樹木葬を選んでもらえれば、距離や経済面、心情の負担も最小限で済むと感じました。

「お墓=重荷」から「安心」へ

梨花さんは、母に思い切って話してみるつもりです。

 

「お母さん、東京にも自然に囲まれた樹木葬があるんだよ。私は自分の人生を生きたいし、お母さんほど手厚くお墓参りはできない。でも樹木葬は維持管理の手間も少ないし、継承者も不要だから、放ったらかしにはならないと思う」

 

母が宗教に深く関わってきた人だからこそ、最初は受け入れてくれないかもしれません。それでも、「墓守」という重荷を自分に課すことなく、母が安心できる場所を探したいと考えています。

 

かつては、親が子に「墓守」を頼むのは当たり前でした。しかしライフスタイルや家族の形が多様化する中で、その常識は変わってきています。調査でも、「子どもに継がせる前提でお墓を選ばない」層が年々増加しているそうです。

 

梨花さんにとって、お墓や宗教行事は長らく「重荷」でした。20代や30代の頃は自分の人生を生きられてない気がして“生きづらさ”を抱えてきた梨花さん。しかし今、母が宗教にハマった原因もなんとなくわかるようになり、自分にとっても母にとっても納得できる落としどころを見つけたいと思っています。

 

「お墓のことを考えるのは、自分の過去にも向き合うことにもなるので、私自身、避けてきた部分もありました。でも、母方の実家の先祖代々の墓や父方の本家の墓参りを欠かさないで先祖を敬う点については母を尊敬しています。樹木葬なら、母も納得できる形が見つかると思うんです」

 

樹木葬や永代供養など、現代のお墓は多様化しています。お墓を持つことが「重荷」ではなく「安心」になるために──。梨花さん親子のように、早めに話し合い、家族の事情に合った負担の少ない方法を選ぶことが、これからの時代に必要なのかもしれません。

 

[参考資料]
出典:「第16回 お墓の消費者全国実態調査(2025年)」(株式会社鎌倉新書「いいお墓」)

「第16回 お墓の消費者全国実態調査(2025年)」(鎌倉新書「いいお墓」) (https://guide.e-ohaka.com/research/survey_2025/)を基にゴールドオンラインが作成

 

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