入居金3,000万円。「安心の老後」を買ったつもりが…
「夫に先立たれて3年、ずっと一人暮らしでした。地震のニュースを見るたび、“もし自分が倒れたら誰も気づかないのでは”と不安になって……」
東京都内に住む浅田芳江さん(仮名・78歳)は、夫の死後、分譲マンションで独居を続けていました。しかし、年齢を重ねるにつれて不安が募り、ついに決断します。
選んだのは、入居金3,000万円、月額費用約20万円の高級老人ホーム。医療・看護体制が整っており、介護が必要になった場合も安心して暮らせるという触れ込みでした。
「子どもに迷惑をかけずに、最後まで自分らしく暮らしたかったんです。ここに入れば、何も心配しなくていいと思いました」
ところが、いざ入居してみると、「思っていたのと違う」という感情が徐々に膨らんでいきます。
「外出は事前申請が必要で、帰宅時間も管理されている。好きな時間にコンビニに行くことすらできなくなりました」
施設内にはレクリエーションや季節行事も用意されていたものの、参加者同士の距離感は思いのほか遠く、なじみにくい雰囲気だったといいます。
「挨拶しても無視されることもあって。人間関係って、いくつになっても難しいんですね」
看護職員や介護士との会話も業務的なやりとりが中心で、「誰とも話さない日」が珍しくなくなっていきました。
「孤独感だけは、自宅にいたころのほうが少なかった気がします」
ある日、施設の食堂で出されたメニューに食欲が湧かず、自室で買ってきたパンを食べようとしたところ、職員から「部屋での飲食は禁止されています」と注意されました。
「えっ、これもダメなんだ……と、心が折れました。体は元気なのに、まるで管理される存在になったようで」
その日のうちに、退去を意識し始めたといいます。結果、浅田さんは入居から約8ヵ月後、施設を退去しました。
「入居金は全額戻ってこなかったけれど、“もう一度自分の生活を取り戻したい”という思いのほうが強かったんです」
