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社外の協力で技術課題を克服
そのやり方は、私がそれまで工場で行っていた方法とは全然違うものでした。セラミック粉末投入の仕方も、その後の攪拌(かくはん)の仕方も、どちらも今まで聞いたことのない方法だったのです。そもそも、ワックス成形の原料からして違っていました。Kパーツ社は私たちの会社のノウハウを採り入れるだけでなく、別のメーカーのやり方もいろいろ調べて研究していたようです。問題の界面活性剤はキングインベストでは教わらなかったので独自で半年かけて最適な薬剤を見つけていました。
ワックス原料が私たちの会社のものと異なるため、残念ながら、Kパーツの界面活性剤レシピをそのまま流用することはできません。しかし、考え方の基本を教えてもらったので、自分で適切な界面活性剤を調合することは十分可能だとの手応えを得ることができました。思い切ってKパーツ社のキーマンを訪問して何よりの結果になりました。
プロとして一つの道で長く仕事を続けていくには、自分の仕事に矜恃を持つことがとても大切です。しかし、その矜恃を保つために、時にはメンツを捨てなければならないこともあります。この界面活性剤のケースが私にそう教えてくれました。
大学OBとの出会いが突破口に
数日後、茨城県にあるワックス原料のメーカーにも足を運んでみました。すると、驚くべきことに、そのメーカーの社長さんは私と同じ早大理工学部応用化学科の出身で、30年ほど先輩だったのです。そんなことから私の相談にも親身に乗ってくれて、ほかの原料メーカーにも、キングインベストにできるだけ協力するよう、呼びかけてくれました。この世はまさに「捨てる神あれば拾う神あり」だと実感しました。こうした人々の協力のもと、セラミックコーティングに使う界面活性剤の調合にも成功し、あの“事件”から7日後には精密鋳造の生産体制を復旧させることができました。
ちなみに、界面活性剤の問題については後日談があります。私がその調合レシピを教えてもらうために転職した前技術部長宅を訪ねたとき、前技術部長は私にまるっきりのデタラメを教えました。それだけでも相当悪質だと思いますが、彼は私がレシピを聞きに自宅まで来たことを、一緒に転職していったかつての同僚たちに面白おかしく吹聴していたそうです。「社長のどら息子がレシピを聞きに来たから、思い切りウソを教えてやったぜ。あいつ、オレの言うとおりにやったらスラリーが逆に固まってしまったんで、真っ青になったんじゃないか、がはははは」と。
ともあれ、次の目標はとにかくフル回転で製品を製造して、事件前から決まっていた納期を死守することです。「あの会社はもうダメだろう」という周囲の冷ややかな目を跳ね返すためにも、事件前と同等かそれ以上の仕事ぶりを見せつける必要がありました。もし、それができなければ、保有している金型も得意先から返却を求められ、すべての仕事を競合他社に奪われることになり、本当に「万事休す」になってしまいます。数が半分に減った従業員で目標を達成するのは相当に厳しいものでしたが、火事場のなんとやらで残った社員たちはアドレナリン全開で働き、なんとか決められた数の製品を納期までに納めることができました。社員一丸となり、なんとか、最初の難関はクリアしました。
戸田 拓夫
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