(※写真はイメージです/PIXTA)

金融庁が、フィンテック企業「JPYC」による円建てステーブルコイン「JPYC」を国内で初めて承認した。改正資金決済法に基づく制度化された第1号の事例であり、今月18日に資金移動業として登録が完了し、今秋にもステーブルコイン「JPYC」の発行・償還サービス「JPYC EX」が開始される予定だ。ドル建てステーブルコインが世界市場を席巻するなか、円建てコインの登場は日本の金融主権を強化するとともに、国債市場や決済・送金分野に大きな影響を及ぼす可能性がある。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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今後数週間後には発行・販売が開始される見込み

金融庁は、フィンテック企業のJPYCが発行する日本円建てステーブルコイン「JPYC(岡部典孝代表)」を、国内で初めて承認した。今月18日にJPYC社が資金移動業として登録され、今後数週間後には発行・販売が開始される見込みである。

 

JPYCは「1JPYC=1円」という価格を維持するよう設計され、裏付け資産には預金や日本国債(JGB)など流動性の高い資産が用いられる。購入希望者(個人・法人)は銀行振込により代金を支払うと、デジタルウォレットにトークンが送付される仕組みとなっている。

 

日本では2023年6月に資金決済法が改正され、ステーブルコイン発行に関する法的枠組みが整備された。許可された発行者(銀行、資金移動業者、信託会社等)には、裏付け資産の透明性や即時償還性など、厳格な要件が課されている。今回のJPYC承認は、この制度に基づく円建てステーブルコインの第1号となる。

 

One Asia法律事務所パートナーでJPYC社の創業当時からの株主でもあるの森和孝弁護士は、今回の承認について次のように評価する。

 

「改正法施行から承認まで長い時間がかかったが、しっかりとした制度設計の上で今回の承認に至ったことは大変評価できる。国際社会ではステーブルコインの実用化が着実に進むなか、日本企業が円建て決済を選択できない現状は競争劣位となりつつあった。歴史を振り返ったとき、この承認は米ドル一強のステーブルコイン市場に楔を打ち込む最後のチャンスを逃さなかった出来事と位置付けられるかもしれない」

 

世界ではUSDTやUSDCといったドル建てステーブルコインが市場を席巻し、全体で2,500億ドル(約37兆円)規模に拡大している。日本でも2025年3月にUSDCが金融庁の承認を受けて上場し、海外資本によるドル建てステーブルコインの利用が広がるなか、円建てコインの登場は金融主権の強化につながるとみられる。

 

JPYCの発行が本格化すれば、日本国債の新たな買い手として市場に影響を及ぼす可能性もある。米国ではTetherやCircleといった発行者が米国債の大口買い手となっており、JPYCも日本国債を大量に保有する見通しだ。JPYC代表の岡部氏はステーブルコインを「巨大な国債消化装置」と表現し、その普及が国債需要の底上げと金利安定に寄与するとしている。

産業構造や消費行動そのものを変える可能性

森弁護士は、日本経済への影響についても次のように指摘する。

 

「長年使いづらく高コストのまま放置されてきた国際送金は、ステーブルコイン普及によって改善を迫られる。さらに、これまで米ドル一択だったWeb3決済に円建ての選択肢が生まれ、日系企業は為替リスクを負わずに取引できるようになる。加えて、クレジットカードやQR決済に比べて超低コストのステーブルコイン決済が広がれば、店舗の負担が軽減され、実質的な『手取り』が増える効果も期待できる」

 

もっとも、課題も残されている。森弁護士は3点を挙げる。

 

●日本の規制水準を満たす国際的な統一枠組みが広がるかどうか。各国制度が分断されれば流動性が損なわれる。

●電子決済手段であるJPYCが暗号資産と混同されるなどまだまだ日本社会のリテラシーは低く、その向上が不可欠。

●規制緩和で競争を促進することで、利用者保護を図るという姿勢を維持できるかどうかが問われる。

 

さらに、投資家が注視すべき点として森弁護士は次のように語る。

 

「ステーブルコインの普及は、決済関連企業や金融機関にとどまらず、産業構造や消費行動そのものを変える可能性がある。AIとの相性も良く、イノベーションを加速させるだろう。逆に淘汰されるビジネスも出てくる。大局的な視点が重要になる」

 

今回のJPYC承認は、日本の金融主権や国債市場に影響を与えるだけでなく、国内の決済・送金分野に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。普及の広がり方次第で、日本経済に新たな金融基盤が築かれることになりそうだ。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

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