(※写真はイメージです/PIXTA)

2025年7月に延期されていた高速道路の「深夜割引見直し」だが、4月に発生した「ETCシステム大規模障害」により再延期され、開始時期は現時点で未定となっている。物流業界や荷主企業にとって、コスト見通しや運行計画が立てにくい状況が続く。専門家は「運送会社よりも荷主への影響が大きい」と指摘し、制度に依存しないサプライチェーン改革の必要性を強調している。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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再延期の背景に、4月発生の「ETCシステム大規模障害」

2024年度中に予定されていた高速道路「深夜割引」の見直しが、再び延期されることに――。NEXCO東日本・中日本・西日本の3社は、2025年5月28日に制度改定の再延期を正式発表した。背景には、今年4月に発生したETCシステムの大規模障害がある。

 

この障害で料金の計算や走行記録に不具合が生じ、見直し制度に対応するためのシステム開発が中断。当初は2025年3月ごろに実施予定だったが、いったん「2025年7月ごろ」に延期され、その後、再度の延期となった。現時点で新たな開始時期は未定とされており、制度の見直しは白紙に戻った格好だ。

再延期で広がる混乱

現在の深夜割引は、午前0時から午前4時の時間帯にETCを搭載した車両が高速道路を利用する場合、通行料金が3割割引される制度である。特に物流業界においては、長距離輸送や都市と地方を往復する事業者のコスト圧縮策として、長年にわたり活用されてきた。

 

見直し案には、以下のような変更が盛り込まれる予定だった。

 

●割引時間帯の見直し

●割引対象車両の条件変更

●割引率の調整

 

今回の再延期により、運送業界のみならず、一般の企業にもさらなる混乱が広がっている。見直しが実施されれば通行コストの上昇や物流スキームの再構築を迫られると見込まれていたが、制度の行方が不透明になったことで、経営戦略の再構築や価格設定において先の見通しが立ちにくい状況が続いている。

深夜割引の縮小・廃止なら、年間数百万円のコスト増の可能性

物流業界では、深夜割引の縮小や廃止が現実化すれば、片道数百キロ単位の輸送で数千円の追加負担が発生し、年間では数百万円規模のコスト増となる可能性も指摘される。また、深夜走行を前提とした運行ダイヤやドライバーの勤務体系も見直しが必要となる。

 

地方の製造業や農産物出荷業者など中小企業への打撃も大きい。都市圏への出荷を深夜帯に依存しているケースが多く、割引縮小は利益を直撃する。物流費の上昇は最終的に商品価格に転嫁される懸念があり、消費者の生活コスト増加にもつながりかねない。

 

さらに、深夜帯利用のインセンティブが弱まれば、日中に交通が集中し、お盆や年末年始といった繁忙期の渋滞悪化を招く可能性もある。渋滞によるCO₂排出増は、国のカーボンニュートラル目標に逆行するとの懸念もある。

新深夜割引制度のインパクト、運送会社より「荷主」に大きい

物流ジャーナリストの坂田良平氏は、今回の再延期について次のように指摘する。

 

「2026年4月から改正物効法が施行され、一定規模の物流量を抱えている荷主には『中長期的な計画』の立案義務が課されます。さらに改正下請法により、高速料金を運送会社に支払わない荷主への規制も強化されます。そのため新深夜割引制度のインパクトは、運送会社よりも荷主にとって大きいといえるでしょう。開始時期が未定のままだと、荷主はコストを考慮した適正な運行指示が難しくなり、中長期的な計画の立案にも支障が出かねません」

 

また、深夜割引見直しそのものについても厳しい評価を示す。

 

「一言で言えば、現行制度の課題解決に正面から向き合わず、小手先の対策に終始した制度との認識を持っています。運送会社は荷主の指示で運行せざるを得ず、自主的に運行形態を変えることは難しい。制度が変わっても、現場で行動を変えることはほとんどできません」

 

では、企業はどう対応すべきか。

 

坂田氏は、深夜割引制度に振り回されない物流改革が必要だと語る。

 

「現行の割引率は最大3割です。荷主は最大4割程度、高速道路通行コストが上昇する可能性を前提に、サプライチェーン全体を見直すべきです。制度に依存せず、粛々と物流改革を進めることが中長期的な安定につながります」

高速道路料金体系そのものも「再構築期」へ

深夜割引制度だけでなく、高速道路料金体系そのものも「再構築期」に入っている。高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化が進む中、国土交通省によれば2030年ごろには橋梁やトンネルの維持管理費が年間1兆円規模に達すると見込まれている。このため、通行料金制度を見直して安定的な財源を確保する必要があるとされている。

 

将来的な制度設計においては、以下のような課金方式も検討されている。

 

●走行距離に応じた課金制度(距離比例制)

●時間帯ごとの料金変動制(ダイナミックプライシング)

 

これらは交通量の平準化に資する一方、企業にとってはコスト予測の不確実性が増すという側面もある。

複数シナリオに基づいた対応策が必須か

今回の再延期はあくまで一時的な措置に過ぎない。新たな深夜割引制度に対し、運送業界から批判の声が挙がっている。

 

NEXCO3社側は「見直し時期は未定」との姿勢を貫いている。ETCシステムの復旧後、あらためて導入スケジュールが示される可能性が高い。

 

企業としては、現行制度がいつまで続くか分からない不安定な状況のなかで、複数のシナリオに基づいた対応策を検討することが求められている。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

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