(※写真はイメージです/PIXTA)

東京高裁は6月19日、相続直前に被相続人が大規模出資を行い、新株を発行する「株特外し」によって株式評価を低く抑えた事案で、地裁の一審判決を覆し、税務署による純資産価額方式での評価を支持する逆転判決を下した。本件は、財産評価通達の総則6項が定める「評価が極端に不適当な場合」の適用可否や、相続直前の株式操作による節税の是非が争点となり、非上場株式評価の実務に大きな示唆を与える判例となった。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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国税庁の「財産評価基本通達」総則6項とは

東京高裁は6月19日、相続直前に被相続人からの大規模出資を受けて新株を発行する「株特外し」を行った会社の株式評価について、東京地裁の一審判決を一部取り消し、税務署による純資産価額方式での評価を支持する逆転判決を下した。

 

相続税法22条では、相続が発生した場合、財産の価額を「相続時の時価」によって評価すると定められている。しかし、「時価」が具体的にいくらを指すかは問題となるため、国税庁の「財産評価基本通達」に計算方法が定められている。

 

通達の総則6項では、次の規定がある。

 

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」

 

つまり、財産評価通達に従った評価が極端に不適当と認められる場合、税務署が判断したうえで国税庁長官の指示に基づく別の評価が行われる可能性がある。この判断は訴訟になることもあり、過去には最高裁で国が勝訴した事例や、高裁で国が敗訴した事例もあり、実務上非常に複雑な問題となっている。

事案の経緯

今回の事例は、以下の流れで進んだ。

 

●増資払い込み

2013年8月、被相続人が約36億円を会社に出資。

 

●相続発生

2013年10月、被相続人が死亡。相続時点で株式の評価を財産評価通達に基づき計算すると、評価額は約17億円となった。

 

●配当実施

2013年8月の増資払い込み後、翌9月に配当を実施。

現金36億円が数ヵ月で株式に、財産評価は極端に下がり…

ポイントは、現金であった36億円が数ヵ月で株式に形を変えた結果、財産評価が極端に下がった点だ。実質的には預金が会社に移動しただけで、価値が減少したわけではない。こうした極端な評価減が生じた場合、総則6項の適用が問題となる。

 

裁判所の判断

●東京地裁(1審)

・株式評価を併用方式で計算し、相続税を約49%減額。

・評価通達の制度上の選択権を認め、納税者の主張を一部認めた。

 

●東京高裁(逆転判決)の判断

そして今回の東京高裁となる。高裁では税務署による純資産価額方式での株式評価を支持する逆転判決を下した。その理由として、高裁は以下の点を指摘した。

 

●純資産価額方式の適用による評価

株式評価通達に基づき純資産価額方式を適用した場合、課税対象となる株式の価格は約17億885万円下がり、納付すべき相続税は約9億8,000万円少なくなる。

 

●増資と配当の実態

2013年8月の増資払い込みや、翌9月の配当は、株式保有特定会社に該当しないように意図的に設計された節税スキームであると判断された。

 

●節税目的の新株発行

相続人が相続開始直前に証券会社で相続税の節税策を相談していたこと、さらにこれに基づき意図的に新株発行を行ったことも考慮された。

 

●財産価値の実質的変化の不在

実質的には現金を株式に移したに過ぎず、財産全体の価値は減少していないにもかかわらず、株式評価を低く抑える手法が用いられていたことを認定した。

高裁、納税者の主張を退けて税務署方式の評価を支持

これらの事情を総合的に判断し、高裁は納税者の主張を退け、税務署による純資産価額方式での評価を支持する判断を示した。

 

相続税法の問題に詳しい八ツ尾順一大阪学院大学教授は下記のようにコメントする。

 

「財産評価通達の総則6項は、財産評価の租税回避防止の規程です。約36億円の現金を約17億円の株式にすり替えること自体、マジックとしかいいようがありません。したがって、総則6項を適用されてもやむを得ないのではないでしょうか。極端な減税を予定しているスキームは避けるべきです」

 

上述の通り、総則6項の規定による判断で訴訟となる事例も少なくないが、やはりこの金額の圧縮の大きさを見るなら、やはり「やり過ぎ」だったということだろう。

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

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