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『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
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国際的視点からの富裕層のタックスプランニング
企業や富裕層にとって、国内の制度にとどまらず国際的な枠組みを利用して合法的に税負担を軽減することは、今日では一般的な戦略となっている。各国の税制は多様であり、さらに租税条約を組み合わせることで、より有利な課税スキームを構築できる余地が存在する。
とりわけ個人富裕層の場合、法人に比して制度の適用が比較的単純であるため、各国の所得税・相続税制度と租税条約を組み合わせることで、1つのタックスモデルを形成することが可能である。
実際に、大手会計法人は世界主要国の税制資料を公開しており、また租税条約による配当・利子・使用料の源泉税率に関する国際ネットワークは長年利用されてきた。
具体例として、X国から得た利子所得の源泉課税を回避してY国に移転する場合、X・Y間の条約条件が不利であれば、どの国を経由するのが最適であるかを検討する必要がある。この手法は従来「トリーティーショッピング」と呼ばれてきた。
8月に『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』を刊行した矢内一好氏(国際課税研究所首席研究員)は、
「今後は、単なる条約利用にとどまらず、AIが膨大な税制データを解析し、より複雑かつ精緻なタックスプランニングを自動生成する時代が到来する可能性がある」
と指摘する。
AIによるタックスプランニングの進化と専門家の役割
これまで国際的な租税戦略の立案は、弁護士や会計士といった専門家の領域であったが、今後はAIがその一端を担う可能性を秘めている。
このような状況に対し、税務当局が検討すべき対応は矢内氏によると大きく2つに分けられるという。
◆一般否認規定の導入
日本の現行制度には存在しない「一般否認規定」を導入し、広範な租税回避行為を対象とする方法である。
「『租税回避』と『合理的な節税』の境界が曖昧であることが課題となる。また、納税者からは『税務当局の権限が過度に強まる』との懸念も生じることが想定される」(矢内氏)
◆義務的開示制度(MDR)の導入
もう1つは、納税者が一定の要件を満たすタックスプランニングを利用する場合、その内容を事前に税務当局に開示する「義務的開示制度(MDR)」である。MDRは承認制度ではなく、情報収集を目的とする制度である。
「特定の納税者のみが制度の抜け穴を利用して大幅な課税回避を行う事態を抑止できるため、納税者間の公平性を確保する効果が期待される」(矢内氏)
MDR回避への対応と公平性の確保
もっとも、MDRが導入されたとしても、開示を避けて独自の取引形態を秘匿し、租税回避を図る納税者が出現する可能性は否定できない。このような行為は、正直に開示した納税者から見れば「抜け駆け」と映り、不公平感を助長する。
「この不均衡を是正するためには、税務調査によって発覚した場合に、開示を行った納税者と行わなかった納税者とで加算税などの制裁に差を設けることが有効だろう。これにより、制度の実効性を高めるとともに、納税者間の公平性を維持することが可能となる」(矢内氏)
テクノロジー時代の税務当局の課題
AIの活用によって、タックスプランニングはこれまで以上に精緻化・複雑化する可能性が高い。租税条約網を駆使したスキームは従来の専門家の領域を超え、今後はテクノロジーの発展によって加速度的に進化するであろう。そのなかで税務当局は、一般否認規定やMDRといった新たな租税回避防止策を検討しつつ、納税者間の公平性をいかに確保するかという課題に直面している。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
