父は死去、母は施設へ…ビル一棟を相続した「50代・働いた経験ゼロ」のお坊ちゃん、人生初の一人暮らしで起きた悲劇。“切ない孤独死”を告げたパトカーのサイレン

父は死去、母は施設へ…ビル一棟を相続した「50代・働いた経験ゼロ」のお坊ちゃん、人生初の一人暮らしで起きた悲劇。“切ない孤独死”を告げたパトカーのサイレン
(※画像はイメージです/PIXTA)

部屋の扉の向こうで、誰にも知られず、たった一人で息を引き取る。そんな「孤独死」は、単身世帯が最多となった現代日本で、誰の身近で起きてもおかしくない。その静かな死は、残された友人や親族に、深い悲しみと「もっとなにか、できたことがあったのではないか」という終わらない問いを突きつける。ある友人の死をきっかけに、株式会社TBH不動産代表取締役の柏原健太郎氏が導いた、一つの結論とは?

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増える孤独死

現実に、単独世帯はすでに日本で「最多の世帯類型」だ。2020年の国勢調査によると、単独世帯は2,115万1,000世帯、全体の38.1%を占め、2050年には44.3%(2,330万世帯)に達すると推計されている。これに伴い「孤立死」も深刻な社会問題となっている。

 

※「孤独死」は広く使われるが、政府の有識者会議は、警察が扱う自宅死亡から一人暮らしを抽出し、看取りの有無は直接測れないため死後の経過日数を手がかりに生前の社会的孤立を外形的に推認するため、「孤立死」という操作的定義を置いている。孤立死の目安は8日以上(参考として4日以上)。

 

2024年の国の推計では、孤立死(死後8日以上経過)は2万1,856件、参考値の4日以上は3万1,843件。性別では男性が約79%を占める。

 

この静かな数字を前に、私はあえて強くいいたい。

 

「準備のない単身者の最期は、他人に決められてしまう」

 

警察・自治体・管理会社・金融機関——。本人の意思が示されていなければ、それぞれの組織が持つ定型のフローが発動する。葬儀の形式から部屋の後始末まで、本人の「望む段取り」とは別の線路を走り出すのだ。これは善悪の話ではない。段取りを書き残していないと、段取りは他人の書式に委ねられるという現実だ。

 

Tさんの件で、私は仕事の進め方を変えた。人は「正しい説明」だけでは動かない。動くのは、面倒が最小化された具体的な段取りに出会ったときだ。価値観を説得するのではなく、段取りの設計に注力する。単身者の自由を尊重し、その自由を守るための準備だけを、一緒に整えることにした。

最もシンプルな終活準備

そのやり方はシンプルだ。終活の相談を受けたら、まず“小さな実績”として3枚のミニシートに記入してもらう。机に置くのは、次の3枚だけ。

 

1枚目は「緊急連絡カード」。財布と玄関に置くことを前提に、連絡先を2名分、自身の既往歴、合鍵の所在を記す。

 

2枚目は「10分インベントリ」。銀行・証券、保険、年金、不動産、公共料金・通信、クレジットやキャッシュレス、税やサブスクなど、契約している項目にチェックをつけ、保管場所や支払方法だけをメモする。

 

3枚目は「もしものメモ」。葬送の希望、連絡してほしい人の優先順位、遺言の有無と保管先、スマホのロック解除方法やIDの保管場所を記す。

 

専門用語は使わない。まず「今日ここで、ここまで整った」という手触りを感じてもらうことが重要だ。この小さな成功体験があれば、その後の遺言や死後事務委任、任意後見、信託といった法的な手続きへも、空欄を埋める作業としてスムーズに移行できる。

 

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