(※写真はイメージです/PIXTA)

「3年後を見据えて新規事業を計画する」——多くの企業で当たり前とされるその視点が、実は事業の成長を阻む“落とし穴”かもしれません。なぜ、ほとんどの新規事業は大きく飛躍することなく、既存事業の域を出られないのでしょうか。本記事では、リクルートで多様な新規事業開発に携わった羽野仁彦氏の著書『9割の企業がはまってしまう 新規事業開発の落とし穴』より一部を抜粋・再編集。「7年」という長期スパンで構想を固めることの重要性と、事業を中核に育てるための具体的なフェーズについて解説します。

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新規事業は市場に投入してからが本当の勝負

7年の内容をもう少し詳しく説明します。「不」「課題」「お財布」を想定した筋の良い事業構想として策定し、そのプロトタイプを市場に投入(リリース)するまでに、少なくとも半年から1年程度はかかります。プロトタイプ投入までの期間は事業構想の手前のアイデア段階から数えれば、もっと長くなることもあります。

 

その後のプロトタイプを市場投入した2年目から3年目は、まずはこの新規事業を小さく回して経験を積んでいきます。この時期のKPIは売上や利益ではなく、経験数や継続率とするのがよいと考えています。KPIとしては、100社の顧客獲得や販売個数などの、事業の経験を増やしていく指標に設定することが重要です。当初の3年は事業を回しながら経験を積むことで、将来の跳躍のチャンスを確実につかめる事業に育てていく、事業としての基盤を整えることが目標となります。

 

この2年目から3年目の段階で直面するのは、新規事業であるがゆえの不具合とクレームの発生です。これに丁寧に応え、不具合を修復しながら事業としての完成度を上げていきます。新規事業開発の指南書は、事業を構想して市場に投入するところがゴールとなっているものが多いのですが、本当に新規事業が育つかどうかは、市場に投入したあとの対応次第であり、ここが最も重要なフェーズといっても過言ではありません。

 

新規事業は、2年目から3年目のプロトタイプを市場に投入したフェーズが最も苦しく、このフェーズを乗り越えた新規事業は、チームも整い始め、不具合の修復も終わり、守りの体制もできています。このフェーズになり、事業が本格的に回り始めると、さまざまなポジティブな反応も現れて新しい引き合いも増えてきます。事業が回り始めているということは、事業構想段階で想定した「不」「課題」「お財布」が確かにあったということです。

 

4年目から5年目の段階に入ってくると、事業を一気に成長させる「跳躍のチャンス」が到来します。それは業務提携かもしれないし、強力なパートナーの登場かもしれないし、あるいはジョイントベンチャー(JV)の誘いかもしれません。その「跳躍のチャンス」をうまくつかみ、一気に事業を拡大するのがこのフェーズです。このフェーズでチャンスをつかんで成長ができると、既存事業部門に引き渡せる新規事業となります。最後の1年をかけて、新規事業部門から既存事業部門に引き継ぎを行っていきます。

 

このように考えてみると、7年は決して長いわけではないことが分かると思います。もし、新規事業の事業構想をスタートさせ、7年後はどうなっているのか、それが考えられない、あるいはまったくイメージできない、イメージする必要もないと感じるなら、それは新規事業開発がいつの間にか新商品や新サービスの開発になってしまっているという、事業構s段階の「落とし穴」にはまっている証拠かもしれません。

 

〝短視眼〟という言葉で私は表現しますが、新規事業開発の視程が短すぎることが多いのです。近視眼的といえば、目先のことばかりに目を奪われて大局を見ることができないという指摘ですが、短視眼は視程の短さを特に指摘したいと思って使っています。どっしりと構えて7年という視程を持つことが必要です。

 

出所:『9割の企業がはまってしまう 新規事業開発の落とし穴』(幻冬舎メディアコンサルティング)より抜粋
[図表3]7年の想定 出所:『9割の企業がはまってしまう 新規事業開発の落とし穴』(幻冬舎メディアコンサルティング)より抜粋

 

羽野 仁彦

コンサルティングファームOmelette 株式会社

代表取締役

 

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本連載は、2025年6月23日に刊行された羽野仁彦氏の著書『9割の企業がはまってしまう 新規事業開発の落とし穴 』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部抜粋・再編集したものです。

9割の企業がはまってしまう 新規事業開発の落とし穴

9割の企業がはまってしまう 新規事業開発の落とし穴

羽野 仁彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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