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生き残りを懸けて「新規事業」に挑む国内企業
右肩上がりの経済成長は終焉(しゅうえん)を告げ、先行き不透明な時代となりました。企業間の明暗が一層鮮明となり、事業環境の変化に迅速に対応できない企業は生き残りが難しくなっています。
かつてデジタル化の波のなかで、フィルムカメラからデジタルカメラへの急激な移行に伴い、フィルム事業が主力だった富士フイルムは大きな事業転換を迫られました。同社はフィルム技術を活かしてデジタルカメラ領域にシフトするとともに、フィルム事業で培った液体を制御する技術を化粧品に転用し、美容事業にも新規参入し、新たな収益源を確保することに成功しています。
ほかにも、家電量販店のヤマダデンキがコア事業の家電の流通網を活かして住宅事業に新規参入したり、愛知県にある石川鋳造は、工業製品向け鋳造物を手掛けていましたが、自社の鋳造技術を活かして消費者向けにフライパンの製造販売を開始し、いまや8秒に1枚売れるフライパンの会社として、事業展開したりしています。
野村総合研究所が2022年に実施した調査では、新規事業開発の予算を増やした企業は約4割にのぼります。多くの企業は新規事業開発の必要性を実感し、その効果も理解しています。
中小企業庁が発行した2024年版「中小企業白書」によると、新規事業が成功した企業のうち、約50%の企業が、経常利益率が増加したと回答しています。また、これらの企業は売上、利益の増加といった効果に加えて、従業員の意欲向上、企業の知名度向上といったメリットも挙げています。
新規事業開発には新たな収益源の創出以外にも、さまざまな効果が見込めるのです。
新規事業の成功率は「千三つ」
しかし、実際のところ新規事業の開発は容易ではありません。私はリクルートに在籍時、「事業開発部門」の責任者として、膨大な数の新規事業開発に携わりました。そのなかでは、成功事例がいくつかありますが、一方で数え切れないほどの失敗を経験しました。
新規事業が失敗する理由は、新規事業開発を推進していくプロセスのなかに、さまざまな「落とし穴」があるのです。
新規事業開発は、いい換えれば、「アイデア(事業構想)」を「ビジネス(事業)」に転換する取り組みです。成功の鍵となるのは、顧客が持つ「不」に対して、どのようなサービス・商品であれば、その「不」を解決・解消できるのか? を定義することです。
「不」を解決・解消できる事業アイデアを絞り出すのは一筋縄ではいきません。「アイデア」から事業企画を立案していくうちに、市場ニーズへの視点がずれてしまい、いつの間にか企画しているサービス・商品が、顧客の「不」の解決から離れてしまった、という話はよくあります。
また、社内で「アイデアコンテスト」のようなイベントを実施するケースがあります。こうしたイベントは「イノベーションを起こせる人材を育てる」「誰もがチャレンジできる組織風土をつくる」といった人事施策や組織づくりの観点でも効果的です。一方で、これらのイベントで提案されたアイデアは新鮮で目を引くようなものであっても、マーケットのニーズ等が深く考慮されておらず、そのままのアイデアでは、新規事業開発に結び付けるのは難しいケースが多くあります。
「アイデア(事業構想)」を基に「ビジネス(事業)」の立ち上げまでは、順調に進んだとしても、落とし穴はあります。事業を開始して2年目ぐらいになると、顧客が徐々に増えてきます。しかし同時に顧客からのクレームも目立つようになるのです。
事業を開始して初年度は、「アーリーアダプター」と呼ばれる流行に敏感な層が顧客の中心で、ほかの人よりも早く試すことに価値を感じる傾向にあります。多少のサービス・商品の不具合でも、顧客の不満は表面化しづらい状態です。しかし、事業開始から2年目になると、顧客数も増え始めるため、さまざまな考え方、価値観を持つ顧客が登場し、サービス・商品の完成度・満足度を要求されるようになります。
新しく立ち上げて、まだ2年目の事業なので、提供する商品やサービスは不完全な状態ですから、クレームの発生は避けられず、そのクレーム対応に人員を割り振らざるを得ません。そのため、事業を開始して、新たに見つけた課題解決に、商品・サービスの改良を行う「攻め」の業務と、顧客のクレーム対応を行う「守り」の業務が発生します。
「攻め」と「守り」をどう両立させていくか――新規事業を軌道に乗せるには、このバランスをうまくとる必要があります。
新規事業を成功させる難しさを示すキーワードとして「千に三つ」があります。1000の新規事業があったとしたら、そのうち残るのは3つしかないという意味で、成功率に換算するとたったの0.3%です。
調査会社のアビームコンサルティングによれば、大手企業の新規事業が中核事業にまで育った割合は3.2%にすぎません。この調査は、売上高200億円以上の大手企業が対象であり、すでに新規事業としてプロセスを開始したものを母数にしています。事業アイデアの段階を含めればより低い結果になると推測されます。「千三つ」は決して大袈裟な言い回しではないのです。

