ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
「貯金がどんどん減っていく」介護離職を選んだ48歳娘
千葉県在住の佐藤真理さん(仮名・48歳)は、3年前に勤めていた会社を退職しました。理由は、要介護2と診断された父・武夫さん(仮名・82歳)の在宅介護です。
「父のことは私が見たい。でも、仕事をしながらでは到底無理でした」
母はすでに他界し、きょうだいは遠方に住んでいます。訪問介護を入れても、日々の細かなケアや食事の準備は、誰かが常にそばにいなければ回りません。こうして真理さんは「介護離職」を選びました。
総務省統計局『令和4年 就業構造基本調査』によれば、「出産・育児のため」に離職した者は調査年の直近1年間で10.6万人に上ります。介護離職も含め、家族のケアを理由とした離職は、働き手と家庭の双方に大きな負担をもたらします。
父の収入は月20万円弱の年金のみ。貯蓄は1,200万円ほどありましたが、そこから2人分の生活費と介護費用を賄う日々が始まりました。
「一緒に暮らし始めてから、光熱費が倍近くになったんです。冬は暖房をつけっぱなしにするので、電気代だけで月3万円近くかかることもありました」
要介護2の在宅介護では、介護保険自己負担分が月2万〜3万円程度。これに医療費やオムツ代などを加えると、生活費全体はじわじわと膨らみます。
さらに重くのしかかったのが、築35年の持ち家の維持費でした。昨年は給湯器の交換に25万円、外壁修繕に80万円。
「貯金がどんどん減っていくのを見て、不安で眠れなくなる夜もありました」
総務省『家計調査(令和6年)』によると、高齢無職世帯の平均赤字は月27,817円。そこに住宅修繕や介護費が加われば、赤字額は一気に跳ね上がります。
介護を始めて3年、真理さんは一度も「働きに出たい」と口にしたことはありません。しかし、貯蓄の減少は止まらず、このままのペースでは10年もたたずに底をつく計算です。
「父の介護を続けたい気持ちは変わらないけれど、生活のことを考えると、何らかの収入源は必要だと思うようになりました」
ただ、介護と仕事の両立は想像以上に難しいもの。デイサービスや訪問介護を利用しても、急な体調変化や転倒の危険があれば、すぐに駆けつけなければなりません。外出中に電話が鳴れば、予定を切り上げて帰宅する必要もあります。こうした制約の中では、フルタイム勤務はほぼ不可能です。
「父は以前に比べて物忘れが増え、夜中に何度も起きるようになりました。睡眠が細切れになる日が続くと、自分の体調まで崩れそうになります」
介護者の健康悪化は、介護離職後にしばしば起きる問題です。体力・気力が削られるなか、将来の生活資金の不安も抱え続ける——そんな二重三重のストレスが続けば、介護する側が倒れるリスクもあります。
介護離職は、個人や家庭だけでなく、社会全体の課題です。働き盛りの世代が家庭の介護を理由に労働市場から離れることで、人手不足が加速し、社会保障制度にも影響が及びます。
厚生労働省は「介護離職ゼロ」を掲げ、企業への制度導入を促していますが、実際には制度を知っていても使えないケースもあります。特に中小企業では、人員不足から介護休業を取りにくい雰囲気があるのが現状です。
