具合が悪いのか、お金の不安か…さまざまな思いを巡らせ、帰郷
「身体の具合でも悪いのか」「経済的な心配か」…誠さんと由美さんはさまざまな不安に思いめぐらせながら実家へと向かいました。
「あらあ、おかえりなさい!!」
ところが、久しぶりに会った母は、思いのほかピンピンしています。
「わざわざありがとうね! 由美さんもいらっしゃい。ご近所からスイカもらったのよ、せっかくだからみんなでいただきましょう!」
久しぶりに親の顔を見てホッとした反面、電話のときの気弱な声はなんだったのかと、誠さんは思わず由美さんと顔を見合わせました。
「お元気そうね…」
「心配なさそうなら、早めに戻るか…」
小声でそう話し合った2人でしたが、その後、想定外の事態が起こります。
母からひっきりなしに続く「頼みごと」
他愛ない世間話の流れから、「家事が大変」「体がしんどい」という高齢者ならではの体調不良の話に。
「悪いけど、食器を洗っておいてもらえるかしら?」
「終わったら、リビングと2階の部屋、全部掃除機かけてくれる?」
「それから、外の物干し場の洗濯物も取り込んで、たたんでおいて。よろしく、ね!」
昨晩遅くまで仕事をし、早朝から新幹線に乗り込んでヘトヘトの由美さんへ、矢継ぎ早に家事が依頼されます。
由美さんは誠さんに真っすぐ視線を向けますが、誠さんは小刻みに頭を下げながら、片手で拝むしぐさをするしかありません。
「誠はさぁ、車を出して! 駅前のスーパーまで買い出しに行くから。由美さん、家のことよろしくね!」
誠さんと由美さんは、黙ってそれぞれの持ち場につきました。
数時間後、夕食を終えてやっと一息つこうとした誠さんと由美さんですが、美代子さんからの「頼みごと」はまだ続きます。
IT企業勤務の由美さんには、スマートフォンやタブレット端末についての質問が止まりません。
「このピカピカ光るのを消すにはどうすればいいのかしら?」
「これを調べるにはどこを押せばいいの?」
「毎回エラーメッセージが出るのよ…」
「ここになんて書いてあるのかしら? 老眼だから字が読めなくてね」
母のスマホにはひっきりなしにダイレクトメールが届き、アプリの配置もめちゃくちゃ。ホーム画面は散らかり放題で、どこから手をつけていいかわかりません。
「由美さん、プロなんでしょう? うふふ、これもお願い!」
すでに老眼になり始めている由美さんも、慣れない他人のスマホやタブレット画面とにらめっこ。パスワードの再設定や使っていないサービスの解約に何時間も費やし、気づけば夜遅くなっていました。
一方の誠さんは、リビングと寝室の模様替えを申し渡されました。
「1人だと重くて動かせないのよ…」
夕食後はずっと、タンスやソファなど大型家具の移動をすることに。
(俺だってもう若くないのに。腰が悲鳴をあげそうだ…!)
心の中で叫びながら、汗だくで作業をこなしました。
2人が任務を完了したのは深夜1時過ぎ。すると母親から、驚きの発言がありました。
「明日からお姉ちゃん一家が泊まりに来るから、あんたたち、客間からリビングに移動してもらうわよ?」
これはかなわないということで、誠さんと由美さんは翌日、姉一家と入れ違いに実家を去り、ヘトヘトの体を引きずって、運よく見つけた近隣の温泉宿に避難しました。
「参った…」
「こんなことになるなんて…」
