葬儀後、続々と入る連絡に「選択を間違えた」
加藤さんも昔から知っている、父の家の隣人でした。正雄さんは家の近所で倒れ、救急車で搬送されたため、心配をしていたとのこと。すでに葬儀も終えたことを伝えると、悲しみ、そして残念そうにこう言いました。
「そうでしたか、葬儀に出られたらよかったのですが……」
そして、それをきっかけに、続々と連絡が入るようになりました。近所の喫茶店での顔なじみ、バードウォッチングの仲間、そして、どこで知ったのか、古い友人や現役時代の会社の同僚や部下と名乗る人まで。
さらに、加藤さんを驚かせたのが、家族葬から除外した親戚のなかに、怒りながら電話をかけてきた人がいたことです。
「葬式に呼ばないなんて信じられない」
「体調が悪かろうと、大変だろうと教えてくれたら行ったのに」
葬儀の人数を絞ったことは家族の負担を考えた合理的な判断だったはずですが、もっと周囲にも知らせるべきだったのかと自問自答せざるを得ませんでした。
それからしばらく、週末は実家に訪れる人のお焼香対応に母や妻と共に追われました。人が来るたびに、家に上げて、お茶を出し、香典返しを渡す……。特に、高齢の母は大変そうでしたが、「自分の役目だ」と言います。
もうひとつ、加藤さんの心を苦しめたものがありました。父の遺品整理を始めると、タンスから1冊の通帳が出てきたのです。年金や貯金の入出金がまとめられた通帳とは明らかに別管理の、綺麗な通帳です。
中には、500万円の預金とともに「私や妻に何かあったときのために」と、父の手書きのメモが挟まっていました。母も把握していなかったお金でした。
「このお金を使って、お世話になった人たちが集まるちゃんとした葬儀をしてほしかったのだろうか」
加藤さんは、そう思い、さらなる後悔に襲われたといいます。
「家族葬は120万円ほどで負担は軽かったけど、結局お返しや対応にかなりの時間とお金がかかってしまいました。家族葬という選択は、父に関しては合っていなかったと思っています。一度きちんとした葬儀をしていれば、こんなに大変な思いをしなくて済んだかもしれません。母まで苦しめてしまい、本当に後悔しています」
まだまだ元気だと思い込んでいた父に、きちんと希望を聞けていたら……。そんな後悔が、今も心に重くのしかかっています。
