(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親が再婚したことで、家族間の信頼が揺らぎ、財産が予期せぬ形で失われる――そんなトラブルは決して珍しくありません。本記事では事例をもとに、その手口や法的な落とし穴、そして被害を防ぐための対策について見ていきます。

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母の再婚…気づけば「通帳も家も手元から消えていた」

「なんでもっと早く気づけなかったのか…」

 

そう語るのは、40代の二児の母、田村美咲さん(仮名)。未亡人である母が再婚した相手によって、実家の預貯金や不動産がいつの間にか手放されてしまったといいます。

 

父の死後、母はしばらくの間ふさぎ込み、外出も人付き合いも減っていました。そんなある日、古くからの友人が心配して声をかけ、食事の席をセッティングしてくれたのです。そこで母は、10歳年下の男性と出会いました。優しい笑顔と気さくな会話に、久しぶりに心がほぐれたのか、その後まもなく交際を始めることになりました。

 

交際期間はわずか半年。母から「一緒に暮らしたい」と告げられ、美咲さんも「母が再び笑えるなら」と背中を押しました。

 

「母は『優しいし、生活も支えてくれる』と言っていました。私も母の老後の支えになってくれるならと安心してしまったんです」

 

再婚相手は物腰が柔らかく、初対面のときも丁寧な挨拶をしてくれました。財産やお金の話は一切出ず、あくまで母を大切にしてくれる印象を受けたといいます。

 

しかし再婚後しばらくして、美咲さんは異変を感じ始めます。

 

母の通帳や印鑑が「管理が面倒だから」との理由で再婚相手の手元に置かれるようになり、光熱費や固定資産税の支払い口座も切り替えられていました。

 

「母に確認しても『全部任せてあるから大丈夫』と言うばかり。何か言うと機嫌を悪くするので、それ以上は聞けませんでした」

 

やがて母と美咲さんの会話の機会も減り、再婚相手が電話を取り次がないことさえ増えていきました。

 

事態が動いたのは、母が体調を崩し入院したときです。入院費の支払いのため通帳を確認すると、数百万円あった預金がほぼ空になっていました。

 

さらに調べると、母名義の自宅はすでに売却され、所有権は第三者に移っていたのです。

 

「頭が真っ白になりました。家を売るなんて母は言っていませんでしたし、売却益がどこにいったのかもわかりませんでした」

 

後にわかったのは、母が“自ら”売却書類にサインしていたことです。体調や判断力が落ちていた母に、再婚相手が「将来のため」「税金対策になる」などと言葉巧みに迫っていたとみられます。

 

こうした事例は、法律上の空白や家族間の油断を突く典型的な「相続詐欺」のパターンです。

 

●財産管理を口実に通帳・印鑑を預かる

●高齢者本人に直接署名・押印させ、外形的には「自発的」に見せる

●売却や名義変更を、本人が理解していないまま進める

 

表面上は合法に見えても、実態は意図的な誘導や不当な影響力行使であり、後から取り消すのは困難です。

 

実際、『司法統計』によれば、遺産分割に関する調停・審判の申立件数は年間1万3千件超にのぼります。この中には「財産が勝手に処分された」「相続分が不当に減らされた」といった事例も含まれています。

 

「親の再婚相手に財産を使い込まれた」「兄弟が勝手に不動産を売却した」といった事例は、家庭裁判所や専門家のもとにも少なからず持ち込まれており、相続詐欺と呼ばれるトラブルの一端を示しています。

 

美咲さんは弁護士に相談しましたが、「契約書に母の署名と押印があり、意思能力が否定できない限り、無効にするのは難しい」と告げられました。

 

意思能力の有無は医師の診断書や証言で立証する必要があり、時間も費用もかかります。さらに売却先が“善意の第三者”であれば、たとえ経緯に問題があっても所有権は保護される可能性が高いのです。

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