家計も家事も妻任せ…70歳夫を襲った「まさかの出来事」
地方都市の一戸建てで暮らす高橋信夫さん(仮名・70歳)は、大学を卒業してから40年以上、営業職として会社員生活を送ってきました。仕事一筋で、朝早く家を出て夜遅く帰宅する日々。家庭のことはほとんど妻の良子さん(享年68歳)に任せきりでした。
「私が外で稼いで、妻が家のことをやるという担当分けで、家計のことは全部良子がやってくれていたんです。私は毎月、小遣いをもらうだけでした」
そんな信夫さんにとって、光熱費や保険料、クレジットカードの支払い、銀行口座の残高管理は、自分の生活の外側にあることのように感じていました。それは、年金暮らしになっても変わらず、妻が信夫さんの分の年金も管理し、やりくりをしてくれていたのです。
37歳になる一人娘はすでに独立して家庭を持っています。信夫さんの家からは電車で1時間ほどの距離。良子さんと娘はよく電話やLINEで連絡を取り合っていましたが、信夫さんと娘の会話は帰省のときに年に数回ある程度。2人で深い話をしたことはほとんどありませんでした。
そんな生活が一変したのは、ある冬の朝のことでした。
「ちょっと胸が苦しい……」
良子さんはそうつぶやいたかと思うと、そのまま床に崩れ落ちました。救急搬送されましたが、病院に着く前に心肺停止。医師から「大動脈解離」「残念ですが……」と告げられた瞬間、頭が真っ白になりました。
あまりに突然のことに現実感のないまま、葬儀の準備に奔走することになったといいます。
銀行からお金を引き出したいが、暗証番号がわからない
葬儀の打ち合わせを終えると、見積もりを提示されました。家族葬の費用は110万円ほど。信夫さんはそれぐらいは十分払えるだろうと思いました。ところが、無事葬儀を終えた後、ふと気づきます。
「そういえば、銀行の暗証番号って何だったか」
タンスの引き出しには通帳がありましたが、数年間記帳されていません。暗証番号もわからず、試しに妻や自分の誕生日を入力してみたところ、すぐにロックがかかってしまいました。
「恥ずかしいのですが、私は銀行からお金を引き出したこともなくて、番号を知らなかったんです」
慌てて銀行窓口で本人確認をし、暗証番号の再設定を依頼しましたが、手続きには数日かかると言われました。また、妻の年金は妻名義の口座に振り込まれていたため、妻が亡くなったことを銀行に伝えても、「たとえ配偶者でも、正式な手続きをしなければ引き出せない」と説明されました。
こんなことも知らなかったのかと、改めて自分の無知を痛感した信夫さん。娘は多忙ながらも、快く手助けをしてくれたのは幸いでした。
