(※写真はイメージです/PIXTA)

日本政策金融公庫発表の「米国の関税引き上げによる中小企業への影響に関する特別調査」から、米国による貿易政策の転換が、日本の中小企業に実質的なダメージをもたらしていることが浮き彫りとなった。問題を把握していても、リソース不足で具体的な対応策が取れない企業もあるようだ。これから先、どのような姿勢で課題解決を図ればいいのか。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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関税引き上げの影響、実態把握が遅れている企業も多数か

日本政策金融公庫発表の「米国の関税引き上げによる中小企業への影響に関する特別調査」は、全国の中小企業13,936社を対象に2025年4~6月期に実施され、4,846社から有効回答を得たものだが、それによると、多くの中小企業が、直接的あるいは間接的にグローバルなサプライチェーンの影響を受けている実態が明らかになった。

 

米国の関税引き上げによる影響をみると、全体の34.9%が「マイナスの影響を受けた」と回答し、明確に被害を自覚している企業が一定数存在する一方で、64.5%が「どちらともいえない」と回答している。

 

この「どちらともいえない」には、影響が出ていてもまだ業績に反映されていないケースや、対応の遅れにより影響を正確に把握できていない企業が含まれる可能性がある。

 

また「プラスの影響があった」と回答した企業はわずか0.6%にとどまり、関税引き上げが企業経営に好影響を及ぼすケースは極めて少ないといえる。

「関税の直接的影響」と「円安」が、中小企業の収益を圧迫

従業員数で見ると、100人以上の中堅企業では38.7%が「マイナスの影響あり」と回答しており、49人以下の小規模企業(33.2%)よりも高い割合となった。

 

これは、規模の大きい企業ほど海外との取引や部材調達の比率が高く、国際的な供給網への依存度が高いことを反映していると考えられる。

 

マイナスの影響のなかで最も多く挙げられたのは「仕入価格の上昇」(46.7%)で、続いて「取引先の輸出量の減少」(41.8%)、「サプライチェーンの混乱による調達難」(13.8%)が続いた。

 

背景には、関税の直接的影響に加えて円安による輸入コストの上昇もある。価格転嫁が難しい中小企業にとっては、収益圧迫の“二重苦”となっているようだ。

 

また、一部業界では調達先の見直しや国内回帰の動きも見られるが、コストや品質の問題から、すぐには切り替えが難しいという実情もある。

「輸出先に依存するビジネスモデル」の脆弱性が浮き彫りに

とりわけ深刻な影響を受けているのは、売上に占める輸出比率が25%を超える企業であり、そのうち59.6%が「マイナスの影響あり」と回答している。

 

内訳では、「自社の輸出量の減少」および「取引先の輸出量の減少」がいずれも51.0%と、外需の縮小が企業に直接打撃を与えている。

 

これは、輸出先の需要に過度に依存しているビジネスモデルの脆弱性を浮き彫りにしており、為替・関税・地政学的リスクの分散が大きな課題であることを示している。

リソース不足の中小企業、即応的な対策は困難か

すでに実施された対応策としては、以下のようなものが挙げられた。

 

「経費(原材料・部品等を除く)の削減」…23.9%

「仕入価格上昇分の販売価格への転嫁」…21.1%

「国内販売の強化」…13.1%

 

一方で、「特に対策を講じていない」企業は45.8%にのぼっており、約半数が何らかの対応を取れていない実態が見える。

 

これは、資金や人材、情報といったリソースの不足から、即応的な対策が難しい中小企業の構造的課題を物語っている。

今後も「価格とコスト」での攻防が続く見通し

今後予定されている対応策は以下のとおり。

 

「販売価格への転嫁」…28.3%

「経費削減」…28.2%

 

いずれもほぼ同率であり、中小企業が“外部環境の変化”よりも“内部構造の見直し”に活路を見出していることがわかる。

 

ただし、価格転嫁には限界がある。消費者の価格感度が高まる中では、過度な値上げが需要減少を招くリスクもある。

 

そのため、製品の付加価値向上や販路の多様化といった、中長期的な戦略転換が不可欠といえるだろう。

関税という外圧があぶり出す、経営の耐性

今回の調査結果は、関税という外的要因が中小企業の経営耐性を試す“リトマス試験紙”のような役割を果たしていることを示している。

 

特に輸出依存型の企業では、一国の政策変更が直接的に売上や調達を揺るがすため、リスク分散やサプライチェーンの柔軟性確保が急務となっている。

 

税理士、中小企業診断士の貝井英則氏は、下記のように分析・アドバイスする。

 

今回の調査結果を見ると、影響を受けた中小企業の多くが“経費削減”や“価格転嫁”に追われている実態が見えてきます。

 

しかし、本質的な対応として重要なのは、「自社のコスト構造・収益構造を正確に把握すること」です。これはいわゆる“経営の見える化”です。特に価格転嫁を行う場合でも、どの商品・サービスがどれだけ利益を生み、どこでコストが膨らんでいるかを明確にしたうえで、戦略的に価格改定を行うことが不可欠です。また、顧客離れのリスクを最小限に抑えるために、付加価値の説明責任や取引先との丁寧な交渉も必要になります。

 

さらに、現場では「当面の資金繰り」が最優先課題になります。原価高騰が続く中で利益率が下がっている企業ほど、キャッシュフロー計画を見直し、必要に応じて融資や補助金制度の活用も視野に入れるべきです。国や自治体も輸出関連の中小企業向け支援を強化しているため、情報収集と申請のタイミングを逃さないことが肝心です。

 

そして忘れてはならないのが、“打ち手の優先順位を明確にする”こと。無理な一括改革ではなく、まずは売上構造や仕入ルートの見直しなど、実行可能な部分から段階的に取り組む姿勢が、結果的に経営の安定性を高める鍵になります。

 

トランプ関税は青天の霹靂のように感じられるかもしれませんが、経営には常にこうした「想定外」がつきものです。これを機に、どのような事態が起きても対応できるよう、「資金繰り」の強化と「経営の見える化」に取り組みましょう。

 

中小企業が今後も競争力を維持していくためには、「足元のコスト対応」と「中長期戦略の再構築」の両立がカギを握るだろう。

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

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