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着眼調査…申告漏れなどの非違は71.3%、追徴税額は約28万円
「着眼調査」とは「通常、半日程度で終わる簡易な実地調査」とされているが、だからといって決して軽視すべきものではない。実際、申告漏れなどの非違は71.3%という高い割合で指摘されている。これは、申告書上で誤りの疑いや異常数値が発見された場合に、その内容を電話や文書で納税者に連絡し、自主的に申告書の見直しをしてもらう「簡易な接触」の48.6%を大きく上回っているのだ。
また、着眼調査1件あたりの追徴税額は平均約28万円と、これも簡易な接触の約9万円に比べ、3倍以上の差がある。
こうした数値から「AIやビッグデータによる分析をもとに、狙い撃ちのような調査が進んでいるのではないか」といった見方も出てきている。
元国税査察官が語る「着眼調査」の本質とは
この点について、元国税査察官であり、トクチョウ班を2年間指揮した経験をもつ税理士の上田二郎氏は、次のように語る。
「着眼調査は、調査実績の“調整勘定”にすぎず、特別・一般調査と区分して考える意味はあまりない。成功事案は特別・一般に、修正額の小さいものや是認された事案は着眼に振り分けられているだけだ。着眼が増加傾向なのは、電子化によって調査資料が大量に蓄積された結果だ」
国税庁が発表する調査実績は、各地の税務署で集計された数値が国税局を経て国税庁に報告される仕組みとなっている。
しかし、調査区分の振り分けは、各税務署における統括官の裁量に大きく依存しており、着眼・一般・特別といった区分は、あくまで現場の便宜的な分類に過ぎないというのが実情だ。
AI選定よりも…注目すべき“ビッグデータの蓄積”
近年話題になっているAIによる調査対象の選定についても、上田氏は懐疑的な立場を取る。
「実際の現場で、AIを使って対象を選定している調査官はほとんどいない。ただし、税務署が持つデータベースの威力は侮れない」(上田氏)
かつての納税者情報は、紙ベースの資料をアルバイト職員が手作業で整理していたのだが、今では、CRS(共通報告基準)に基づく海外口座情報や法定調書、調査で収集した資料などがデータベース化され、迅速に参照可能な体制が整っているという。
これにより、調査の裏付けやリスク分析の材料としての活用が進んでいるという。
一方で、こうした資料の正確性や信頼性には課題もある。
「誤情報や、精度に疑いのある資料も多く、納税者に直接確認しないと判断できないケースが増えている。その結果、是認(修正なし)となる事例も増え、着眼調査が、いわゆる〈調整弁〉として使われる傾向がある」(上田氏)
着眼調査は「警告のサイン」?…本格調査への入口に
調査区分の呼び方にかかわらず、税務署から調査通知が届いた時点で、すでに“何らかのリスク”に着目されているという事実に変わりはない。
特に、不動産や株式譲渡、信託、海外資産などを保有している富裕層の場合は、税務署が持つビッグデータの蓄積対象になりやすく、着眼調査をきっかけとして、特別調査や反面調査などの本格的な調査に発展するケースも少なくない。
税務署とのやりとりで「自己判断」は厳禁
調査対応について、上田氏は納税者に次のような助言を送る。
「税務署から“お尋ね”が来た場合には、できるだけ早く、経験豊富な税理士に相談してほしい。調査官は資料の存在を明かさずに質問をしてくる。不用意な回答が、重加算税の対象とされることにもなり、また、手持ち資料以外の申告漏れが発覚する糸口になる危険もある」(上田氏)
自己判断で対応を進めることで、調査が不利に進む可能性もある。適切な専門家の支援を受けることが、結果的に被害を最小限に抑える最善の方法となるだろう。
「AI調査時代」の実態は冷静に見極めを
着眼調査やAIによる選定が注目されている一方で、実際の運用は依然として現場の判断や人の裁量に大きく依存しているのが実態だ。
制度や技術の進化に過度に振り回されるのではなく、平時から適正な帳簿管理と申告を行うことこそが、もっとも確実な税務リスク対策である。
そして何よりも重要なのは、「調査通知=リスクに着目されたサイン」として冷静に捉える視点である。そうした心構えこそが、着眼調査時代を生き抜く納税者にとって、真の防衛策となる。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
