急拡大する暗号資産市場、従来の規制では限界
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2025年7月31日、金融庁は金融審議会に新たに設置された「暗号資産制度に関するワーキング・グループ(WG)」の第1回会合を開催した。今回の会議は、近年急速に広がりを見せる暗号資産関連ビジネスの実態に即した規制のあり方を再考する場であり、業界内外から注目を集めている。
現在、日本における暗号資産は主に資金決済法の枠内で規制されている。この法律は、利用者保護や取引の透明性確保を目的として制度設計されてきた。しかし、ここ数年で事業者のサービス内容は複雑化しており、単なる資産の売買にとどまらず、利回りを得る仕組みやトークン発行による資金調達、さらには暗号資産を用いた財務戦略なども登場している。こうした動きに、従来の法体系では対応が難しくなっているのが実情だ。
投資性を帯びる新サービス、情報開示の不備が課題に
会合ではまず、現行制度下で顕在化している課題について、関係者から説明があった。なかでも焦点となったのが、投資性の高い商品・サービスの取り扱いである。たとえば、一部の交換業者が提供するレンディングやステーキングといったサービスは、実質的に投資商品の性格を帯びているにもかかわらず、十分な情報開示が行われていない事例が見られ、投資家保護の観点から懸念が示された。
議論の中心には、「金商法(金融商品取引法)への移行」が据えられている。仮にこの方向性が採用された場合、暗号資産のうち一定の性質を持つものについては、有価証券に類する扱いがなされる可能性がある。そうなれば、発行体や仲介業者には、開示義務や適合性確認義務、内部統制の強化など、これまでとは異なる制度対応が求められることになる。
ただし、一義的に規制を強化するという話ではない。むしろ制度の整備によって市場の信頼性が向上し、これまで様子見を決め込んでいた投資家が本格的に参入する素地が生まれると期待されている。特に、暗号資産をバランスシートに組み込む「ビットコイントレジャリー」と呼ばれる動きは、海外では企業財務の新たな潮流として注目されており、日本でも制度の後押しがあれば、同様の動きが加速する可能性がある。
国際基準との整合性もカギに
また、国際的なルール形成の流れとも歩調を合わせる必要がある。FATFやIOSCOといった国際機関は、暗号資産の持つリスクを明確に認識しており、各国に対して法整備の加速を求めている。とりわけ、ステーブルコインの裏付け資産管理や、自己管理型ウォレットをめぐるAML/CFT(マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策)への対応については、国際的に共通した枠組みの構築が模索されている。
制度の議論が深まるなかで、国内の事業者にとっては、法的義務の増加や運営体制の見直しなど、実務面での影響は避けられない。特に資本力に乏しい中小業者にとっては、制度対応の可否が経営の分岐点となり、今後の議論次第では業界再編が現実味を帯びてくる。
一方で、制度整備が進めば、業界のガバナンスが強化され、健全な競争環境の構築につながる。今回のWGでは、こうした両面の影響を丁寧に整理しながら、制度設計の方向性を見極めていくことが期待される。
グローバル標準での制度構築
暗号資産制度に詳しい森和孝弁護士(One Asia法律事務所)は、今回のWGについて編集部の取材に対し、次のようにコメントしている。
「金融庁がようやく暗号資産制度の抜本見直しに着手したことは評価できるが、既存枠組みの延長線に留まるなら期待外れになる。海外では暗号資産が決済や金融のインフラとして機能し始めている一方、日本は完全に取り残されている。
国際標準から乖離した税制と過重な申告負担が問題の一因であることは事実だが、それを解決することだけが目標であってはならない。分離課税適用のために既存枠組みに無理に当てはめれば、規制が複雑化して本末転倒だ。
このWGには、国内業界の既存利害に配慮した小手先の調整ではなく、グローバル標準での制度構築が求められる。投資家保護を口実にした過度な規制は人材と資本の海外流出を加速させるだけだ。従来の慎重な規制ありきのアプローチから脱却し、日本の競争力回復につながる大胆な改革を期待したい」
次回以降の会合では、暗号資産を金商法の枠組みに組み入れた場合の具体的な影響や、移行措置の設計、事業者の区分整理など、より実務に即した検討が進められる予定だ。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
