賜杯は逃すも、人気と期待は圧勝。新横綱・大の里の真価を証明した「懸賞の厚み」【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2025年7月28日)

賜杯は逃すも、人気と期待は圧勝。新横綱・大の里の真価を証明した「懸賞の厚み」【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
(※画像はイメージです/PIXTA)

大相撲名古屋場所は、新横綱・大の里のV逸という結果に終わりました。しかし、経済の視点でみれば、彼は間違いなく“優勝”しているといえるでしょう。その証左が、彼の獲得懸賞本数が486本でダントツの1位ということ。この個人の人気と、地方場所で過去最高を記録した場所全体の懸賞金市場の活況は、企業の広告意欲と収益の好調さを裏付けています。新横綱の勝敗が示す景気のジンクスと、懸賞本数が示す経済のリアル。2つの側面から、名古屋場所の熱狂と日本経済の現在地を、エコノミストの宅森昭吉氏が読み解きます。

大の里、新横綱優勝は逃すも2つの景気拡張のジンクスのうち1つは満たす。琴勝峰が平幕優勝

大の里は11勝4敗で、景気拡張局面を示唆する新横綱での優勝逃す。ただし、初日から3連勝で“雲竜型土俵入り横綱の初日・2日連勝と景気拡張局面のジンクス”は満たす。

 

大相撲名古屋場所千秋楽で、東前頭15枚目の琴勝峰が1敗で追う東前頭筆頭の安青錦を突き落としで破り、13勝2敗で初優勝を果たしました。琴勝峰は新横綱・大の里から初金星を挙げ、三賞は殊勲賞と敢闘賞を受賞し、新会場IGアリーナでの最初の優勝者に。序盤は4日目・5日目に連敗し3勝2敗でしたが、中盤・終盤で10連勝しました。
 

平幕優勝は2024年春場所の尊富士以来8場所ぶりです。令和の平幕優勝は9回目で、30年強で9回だった平成に、わずか7年弱で並びました。平成以降、名古屋場所(新型コロナの影響で両国国技館開催となった2020年七月場所を含む)での平幕優勝は年6場所中最多の5回目となりました。名古屋場所は暑さや、直前に巡業がないことなどが、ほかの場所との違いといわれています。

 

出所:各種資料
[図表1]平成以降、場所ごとの平幕優勝 出所:各種資料

 

今年の名古屋場所では新横綱・大の里が、師匠の師匠の隆の里、師匠の稀勢の里に続き、3代連続で新横綱での優勝を果たすかどうか、景気面からも注目されました。しかし、残念ながら11勝4敗の成績にとどまり新横綱での優勝を逃しました。

 

15日制になって新横綱での優勝は、1961年九州場所の第48代横綱・大鵬、83年秋場所の第59代横綱・隆の里、95年初場所の第65代横綱・貴乃花、2017年春場所の第72代横綱・稀勢の里、21年秋場所の第73代横綱・照ノ富士の5人だけです。新横綱がファンの期待に応え、重圧に勝って優勝したときは、過去5回ともすべて景気拡張局面に当たっています。

 

ただし、大の里は初日から3連勝し、「雲竜型土俵入りの新横綱が初日・2日目と連勝すると、その場所は景気拡張局面になる」というジンクスの条件は満たしました。

 

5月の景気動向指数による景気局面の機械的判定が速報値で「下げ止まり」から「悪化」に下方修正となりながら、改定値の判断は「下げ止まり」継続に戻ったことに表れている、微妙な景気局面です。そうしたはっきりしない微妙な景気の現状を名古屋場所の新横綱のジンクスに関する結果も示唆しているように感じます。

 

出所:各種資料
[図表2]歴代新横綱の最初の2番の成績と土俵入りの型と景気局面、優勝と景気局面 出所:各種資料

 

(注)年6場所制となった58年以降。☆は不知火型。無印は雲竜型。

*景気局面:◎1年以上拡張、〇1年未満後退局面入り、▲1年未満拡張局面入り、●1年以上後退

*照ノ富士土俵入りはコロナ禍のため社殿は原則無観客。社殿内で実施。動画配信で約3,000人。

*戦後の景気循環第1循環以降の新横綱、千代の山、鏡里、吉葉山、栃錦の4人は新横綱の場所で優勝していない。

懸賞本数が過去最高を更新、企業収益の活況を映す

名古屋場所の懸賞本数は2,196本で地方場所では春場所に続き連続で過去最高を更新。なお、今年の夏場所がすべての場所での過去最高。企業の広告費、収益の好調さを裏付け。

 

名古屋場所の懸賞本数は2,196本で春場所の懸賞本数は2,152本を上回り、地方場所では過去最高になりました。春場所は令和になって初めて地方場所で最高だった平成31年(2019年)春場所1,939本を更新しました。名古屋場所・懸賞本数の前年同場所比は+24.8%の2ケタの伸び率で12場所連続前年同場所比増加になりました。今年夏場所の懸賞本数が両国国技館開催の場所で3連続過去最高を更新となったことと併せ、企業の広告費、収益の好調さを裏付けました。

 

出所:日本相撲協会、各種報道
[図表3]最近の大相撲本場所懸賞本数推移 出所:日本相撲協会、各種報道

※過去最多平成30年秋場所2,160本を更新したのは令和5年秋場所2,325本、さらに令和6年秋場所2,455本。

 令和7年初場所2,815本、令和7年夏場所2,849本で史上最高更新。

※過去地方場所最多平成31年春場所1,939本を更新したのは、令和7年春場所2,152本、さらに令和7年名古屋場所で2,196本。

 

名古屋場所の事前申し込み本数は2,391本で前年名古屋場所の事前申し込み本数を22.8%上回りましたが、実績は2,196本で前年名古屋場所を24.8%上回りました。実績が事前申し込み本数より減少したのは、横綱・豊昇龍をはじめ休場力士が出たことなどが原因です。

 

出所:日本相撲協会、各種報道
[図表4]最近の大相撲本場所懸賞本数推移 出所:日本相撲協会、各種報道

※過去最多平成30年秋場所2,160本を更新したのは令和5年秋場所2,325本、さらに令和6年秋場所2,455本。

 令和7年初場所、事前申し込み2,254本、実績2,815本。春場所、事前申し込み2,916本、実績2,152本。

※令和6年夏場所、事前申し込み2,254本、実績1,980本。令和7年夏場所、事前申し込み2,916本、実績2,849本。実績は過去最高。

※令和6年名古屋場所、事前申し込み1,947本、実績1,759本。令和7年名古屋場所、事前申し込み2,391本、実績2,196本。実績2,196本とともに過去最高。

 

夏場所14日目結びの一番、横綱・大の里と関脇・若隆景の取組に懸かったのは、59本でした。地方場所では今年春場所の大関・大の里と大関・琴桜の取組に懸かった60本に次ぐ史上2番目の本数です。

 

出所:各種資料から筆者作成
[図表5]58本以上の懸賞がかけられた取組 出所:各種資料から筆者作成
※令和6年初14日目は当初結びの予定だった横綱照ノ富士対豊昇龍が、豊昇龍休場で照ノ富士不戦勝。その一部が実質的に結びの一番になったこの取り組みに回ったため。

新横綱・大の里、懸賞獲得本数は486本で堂々の1位

新横綱・大の里、獲得懸賞本数は486本で第1位。夏場所の470本を上回る。

 

名古屋場所で一番多く懸賞を獲得したのは、新横綱・大の里の486本でした。夏場所の470本を上回りました。8勝7敗に終わった大関・琴桜は116本で第2位でした。夏場所の140本を下回りました。

 

出所:日刊スポーツ
[図表6]大相撲名古屋場所懸賞獲得ベスト5 出所:日刊スポーツ
大の里千秋楽54本

 

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

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