日本経済、またも“鬼滅頼み”か…『無限城編』、前作超えのメガヒットで熱狂。公開17日間で歴代10位、「最強コンテンツ」が秘める“想定外の経済効果”【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2025年8月4日)

日本経済、またも“鬼滅頼み”か…『無限城編』、前作超えのメガヒットで熱狂。公開17日間で歴代10位、「最強コンテンツ」が秘める“想定外の経済効果”【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
(※画像はイメージです/PIXTA)

2025年、夏の日本経済。その現状を読み解くと、一見、無関係にも見えるいくつかの興味深い事象が浮かび上がります。一つは、金融機関を狙った強盗事件が過去20年間で初めて「4ヵ月連続ゼロ」を記録したという事実。これは良好な雇用環境を背景とした、社会の静かな安定を示す確かな兆候です。関西圏を中心に熱狂を生んでいるのがプロ野球・阪神タイガースのマジック点灯。これもまた、ファンの消費マインドを刺激する景気のサポート材料として期待されています。一方で、これらの話題を霞ませるほどの“怪物”が、いま、日本中を席巻しています。劇場版『鬼滅の刃・無限城編』のメガヒットです。本稿では、日本景気の底堅さを示す「3つの材料」について、エコノミストの宅森昭吉氏が解説します。

過去20年で初…4ヵ月連続「銀行強盗」発生件数ゼロ

2006年以降の20年間で、4ヵ月連続して金融機関店舗強盗事件発生件数ゼロは初めて。

 

金融機関店舗強盗事件発生件数は2024年では23年と同じ11件、25年上半期は2件と少なく、近年減少傾向にあります。最近の雇用環境の良好さを示唆しているデータのひとつでしょう。

 

架空・他人名義の携帯電話や預貯金口座等を利用し金を騙し取る「振り込め詐欺」などとは違い、生活に行き詰まっての犯行におよぶことが多いと思われる金融機関店舗強盗事件は、完全失業率との相関が高い傾向があります。その発生件数と完全失業率2006年~25年まで20年間(25年は上半期の年換算)の相関係数は0.673です。完全失業率が2.5%程度の低水準で安定している雇用状況を反映して、金融機関店舗強盗事件発生件数も少ないようです。

 

出所:日本防災通信協会、総務省
[図表1]金融機関店舗強盗事件発生件数、完全失業率推移 出所:日本防災通信協会、総務省
※2025年は上半期の年換算。

 

2025年上半期では1月と2月の発生件数は1件ずつで始まりましたが、3月から6月までは0件です。半期で2件は、2006年以降の20年間で最少です。また、4ヵ月連続発生件数0は初めてのことです。

 

出所:日本防災通信協会調べ「防災通信」
[図表2]金融機関店舗強盗事件・発生の業態別推移 出所:日本防災通信協会調べ「防災通信」

「阪神」マジックナンバー点灯も、景気のサポート材料

人気球団・阪神のマジックナンバー点灯は、景気面のサポート材料か。

 

プロ野球シーズン終了後の2024年12月調査の日銀短観で、大企業・全産業・業況判断DIは+23で1年前の23年12月調査を2ポイント上回って景気が緩やかながら改善傾向であることが確認されました。

 

25年読売新聞のスポーツに関する全国世論調査で、プロ野球チームのなかで好きなチームは、巨人が第1位で阪神が第2位でした。好きな球団の優勝は、ファンの消費マインドを高める効果があるようです。人気球団の場合、ほかの球団に比べファン数が多く、その影響力も大きいからです。

 

出所:読売新聞(令和7年5月26日)
[図表3]読売新聞・スポーツ世論調査「プロ野球チームのなかで好きなチーム」 出所:読売新聞(令和7年5月26日)

 

1973年以降2024年までの52年間で、その年のセ・リーグの優勝チームが決まった直後の調査である、日銀短観・大企業・全産業・業況判断DI・12月調査の前年差変化幅の平均はちょうど0.0ポイントです。大企業・全産業・業況判断DIを使うのは、73年にはまだ中小企業・業況判断DIがなかったからです。

 

人気球団の巨人の優勝年ではDIの改善10回・不変1回、悪化10回ですが、前年差変化幅の平均は+5.5ポイントの改善。人気2位の阪神の優勝年では改善が3回・悪化が1回で、前年差変化幅の平均は+3.3ポイントの改善です。残る4球団の優勝年の平均は▲4.7ポイントの悪化、改善が12回、悪化が15回とは違いがあります。人気チームが優勝した年のほうが、平均的にみて日銀短観・大企業・全産業・業況判断DI・12月調査の前年差変化幅がよくなる傾向があります。

 

今年のプロ野球セ・リーグでは7月30日に、首位を独走する阪神に優勝へのマジックナンバー「39」が両リーグを通じて今季初めて点灯しました。同31日にマジックナンバーは消滅しましたが8月1日に優勝へのマジックナンバー「36」が再点灯し、3日現在「34」になっています。2位には12ゲーム差がついていますが、巨人がつけています。ただし、3位DeNAとのゲーム差はわずか0.5ゲームです。

 

7月中に阪神がマジックナンバー点灯としたのは、2リーグ制後3度目です。7月8日にマジックナンバー49が点灯した2003年は阪神が優勝。7月22日にマジックナンバー49が点灯した2008年は阪神が優勝を逃しました。優勝は巨人で13ゲーム差からの逆転は「メークレジェンド」と呼ばれました。今年は3度目の阪神の7月中のマジック点灯です。

 

なお、今年のパ・リーグは8月3日現在、人気2位のソフトバンクが首位、人気1位の日本ハムが1.0ゲーム差で首位を争っています。今年のペナントレースは、これまでのところ景気のサポート材料になっているようです。

 

出所:日本銀行等
[図表4]過去52年の日銀短観・大企業・全産業・業況判断DIの変化幅(12月調査の前年差)と巨人・阪神の優勝 出所:日本銀行等

(注)96年までは11月調査

※:〇改善回数、△横這い回数、●悪化回数

『劇場版「鬼滅の刃」』は、史上最高興収の前作を上回る好スタート

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編・第一章・猗窩座再来』は史上最高興行収入だった『無限列車編』を上回る好スタート。

 

『鬼滅の刃』は、『週刊少年ジャンプ』2016年11号~20年24号に205回にわたり連載されていた吾峠呼世晴の作品で、単行本は全23巻です。時代は大正時代の設定で、鬼に家族を殺された少年・竈門炭治郎が、鬼にされた妹を人間に戻すべく鍛錬し、鬼殺隊として仲間とともに鬼と戦うストーリーです。

 

2019年にはテレビアニメ化され、物語の序章を描く第1期『竈門炭治郎・立志編』が放送されました。

 

『鬼滅の刃』を原作としたアニメの第1部の続編にあたる『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が20年10月16日に劇場公開され、記録的なヒットとなりました。新型コロナ禍下で邦画・洋画とも新たな作品供給が難しい局面のなか、シネマコンプレックスでスクリーン数と上映回数を最大限まで引き上げた戦略が奏功しました。

 

20年10月25日までの10日間の興行収入は107.5億円、観客動員数は798万人になりました。公開10日間での100億円突破は、史上最速で、それまでの最速記録は、『千と千尋の神隠し』(2001年、最終興行収入308億円)の25日間でした。

 

12月13日には、公開9週で302.8億円と最速で300億円突破しました。『千と千尋の神隠し』が300億円を超えるには37週かかったことに比べて異例の速さでした。最終的に『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の日本国内での興行収入407.5憶円(2025年7月27日までは404.3億円)と史上最高に達しました。

 

テレビアニメ第2期として『無限列車編』の再編集版とその続編となる『遊郭編』が2021年10月から2022年2月まで、第3期として『刀鍛冶の里編』が2023年4月から6月まで放送されました。第4期として2024年5月から6月まで『柱稽古編』が放送。完結編として劇場アニメ『無限城編』が3部作で制作されることになり、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編・第一章・猗窩座再来』が2025年7月18日に公開されました。

 

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編・第一章・猗窩座再来』は公開から2週連続1位となり、公開から8日間で興行収入100億円を突破と、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が公開10日間で記録した100億円突破の最速記録を更新しました。10日間の累計成績は動員910万人、興行収入128億円超えと、『無限列車編』を上回りました。歴代興行収入ランキングでは公開2週目にして早くも29位にランクインしました。

 

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編・第一章・猗窩座再来』は公開からの17日間で、興行収入176.4億円、動員1,255.9万人を記録し、歴代興行収入ランキング10位に浮上しました。

 

興収200億円まで、あと23.6億円あまりに迫っています。「無限列車編」が初日から24日間で興行収入200億円を突破し、「千と千尋の神隠し」の59日間を19年ぶりに更新し、最速記録となりましたが、このときの記録を上回る、最速での興行収入200億円突破が濃厚な状況となっています。

 

第3次産業活動指数の映画館(ウェイト1万分の2.2)の季節調整値(2019~2020年平均=100.0)は新型コロナウイルスの影響で20年5月に1.6まで落ち込み、9月も77.7だったように停滞が続いていました。しかし『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が10月16日に公開されたことで映画館は息を吹き返し、10月分は121.6まで改善。音楽・芸術等興行(ウェイト1万分の36.8)の10月分が64.9の低水準だったことと対照的でした。

 

第3次産業活動指数の映画館は25年5月の最新の数字が94.5です。7月分、8月分でどのような数字が出るかが注目されるところです。

 

出所:興行通信社など
[図表5]映画興行収入ランキング 出所:興行通信社など

 

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

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