最低税率ルールで日米摩擦も
日本は令和7年度の税制改正において、国際的な最低税率ルール(Globeルール)に対応するため、「国際最低課税残余額に対する法人税」を新設する方針です。これにより、15%未満の軽課税国にあるアメリカ資本の子会社に対して追加課税が行われることになります。
アメリカ側から見れば、こうした税制は「自国企業への差別的な税制」と映ります。このため日本も899条の適用対象国と見なされました。フランス、ドイツ、韓国、オランダなども同様の扱いを受けました。
米財務長官が899条削除を要請
しかし、状況は急転直下で変わりました。
先日、ベッセント米財務長官が、G20の国際的な課税協調の重要性を踏まえ、899条を削除するよう議会に要請したのです。
これを受け、下院歳入委員会のスミス委員長と上院財政委員会のクレイボ委員長は、「財務長官の要請と、アメリカの税の主権を守るという共通認識に基づき」、同条項を法案から削除する方針を発表しました。
この動きの背景には、ウォール街の強い反発があったとされています。外国人投資家や海外企業によるアメリカへの投資が減少するとの懸念が広がっていたのです。
実際、アメリカでは歴代の大統領がウォール街の反対を無視することはほとんどありません。というのも、大統領の支持率に影響を与える最大の要素は、「失業率の低さ」と「ニューヨーク・ダウ平均株価の高さ」の2点だからです。
つまり、経済と市場を最優先とするアメリカにおいて、外国資本を遠ざけかねない899条は、政治的にも経済的にも持続可能ではなかったということなのでしょう。
今回の撤回劇は、税制が国際協調と市場原理の狭間で揺れ動く現実を、改めて浮き彫りにしたといえます。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾
