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予想を上回る好調な滑り出し、投資額は約8億4,500万NZドル
ニュージーランド政府が2022年9月に導入した「アクティブ・インベストメント・ビザ(Active Investor Plus Visa)」は、導入当初の予想を上回る好調な滑り出しを見せている。制度開始から2024年末までに申請ベースで集まった投資額は約8億4,500万NZドル(約1,100億円)にのぼる(ニュージーランド移民局統計)。
この制度は、旧「投資家ビザ(Investor Visa)」を廃止し、より能動的な資本流入を促すために設計された。最大の特徴は、不動産投資を除外し、成長企業やスタートアップへの直接投資を条件としている点だ。従来の制度が債券や不動産といった受動的資産への投資を許容していたのに対し、新制度ではニュージーランド経済の活性化に直結する“アクティブな投資”が求められている。
この新制度には、パンデミック後の経済再建、国内イノベーションの促進、そして国際競争力のある企業の育成という明確な狙いがある。特にアメリカや中国など海外の富裕層や機関投資家から注目を集めており、制度開始からわずか3ヵ月で米国から85件、中国から26件の申請があり、前述の投資総額の大半を占めている(ニュージーランド移民局統計)。
最低投資額は500万NZドル(約4.5億円)と高額であるため、実質的にハイエンドな層が対象だが、それだけに得られるメリットも大きい。ベンチャー企業やプライベート・エクイティファンドへの投資が可能で、家族の帯同や長期滞在も認められ、条件を満たせば永住権の取得も視野に入る。また、2024年には英語能力の要件が撤廃され、非英語圏からの申請もしやすくなった。
日本からの申請は4件…富裕層、「海外での新たな挑戦」を敬遠か
ニュージーランドが国際投資家にとって魅力的である理由は、制度設計だけではない。安定した法制度、治安、清潔な自然環境などの生活面での安心感に加え、税制面でも大きな強みを持つ。相続税・贈与税が存在せず、キャピタルゲイン税も原則として非課税。法人税率は28%で一定しており、租税回避地とは異なる透明性の高い環境が整備されている。こうした点は、長期的な資産保全や事業承継を検討する富裕層にとって見逃せないポイントだ。
しかしながら、日本からの申請はきわめて少ない。ニュージーランド移民局の統計によると、制度開始から2025年3月末までに申請された全115件(申請者362人)のうち、日本からの申請はわずか4件・12人にとどまっている。
背景には、日本の富裕層特有の心理的・実務的なハードルがあるとみる向きもある。日本国内に生活・ビジネスの根を深く下ろしている層が多く、「海外での新たな挑戦」は不確実性の高い選択肢として敬遠されがちだ。また、ニュージーランドが求める「スタートアップへの直接投資」という投資スタイルは、日本の投資家にはあまり馴染みがないとされる。未上場企業への出資経験が乏しく、「どこに・どう投資すべきか」の判断に戸惑うケースも少なくない。
戦略的な資産ポートフォリオの一環と捉えれば、新たな可能性も
とはいえ、この制度を単なる永住権取得の手段としてではなく、戦略的な資産ポートフォリオの一環として捉えれば、新たな可能性が見えてくる。ニュージーランドは地政学的にも安定しており、アジア太平洋の連携拠点としても注目されている。特に環境問題への取り組みに力を入れており、脱炭素社会に向けた技術開発やグリーンファイナンスといったESG投資の観点からも、成長分野に直接関与する意義は大きい。
また、日本国内では近年、税制改正や外貨規制の強化といった動きも進んでおり、今後さらに資産の保全先や投資先を分散させようとする動きが強まる可能性がある。
『富裕層にやさしい世界の税制【大洋州、アジア・中東、アメリカ編】』を著した国際課税研究所・首席研究員の矢内一好氏は、次のように語る。
「ニュージーランドは日本と季節が逆の南半球にあり、時差もほとんどないため、リゾート地としても魅力があります。相続税・贈与税が存在せず、かつては『海外滞在5年で日本の課税を回避できる』とされていた時期には、富裕層の“避難先”として注目されたこともあります。ただし、常に隣国オーストラリアとの比較の中で評価される宿命もあります」
さらに矢内氏は、ニュージーランド近隣の小国にも注目している。
「ニュージーランドの北東、トンガの東、サモアの南東に位置するニウエ(Niue)という立憲君主国があります。愛知県豊橋市ほどの面積に、人口は約1,500人。かつてニュージーランドの属領でしたが、現在は独立国家です。国外所得が免税とされており、過去には日本企業のタックス・プランニングに活用された事例もありました」
ニュージーランドの「アクティブ・インベストメント・ビザ」が、富裕層にとって単なる避難先ではなく、成長戦略の一手として本格的に検討される日は来るのか。日本の投資家がこの制度をどう捉え、どう活かしていくか──その動向が今後、国際的な資本移動の行方を占う鍵の一つとなるかもしれない。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
